『私の空あなた』が、例え地に堕ちようとも。

憤怒の理由

「あ゛は゛〜〜〜〜〜〜!!」
「こうなったら人海戦術だ!! 囲めぇ!!!」

 半分恐慌状態になりながらも、ベルと対峙することを命じられた指揮官は自分なりの最善を下す。こうなれば彼が力尽きるまで、出来うる限り人を死なせないように付き合うしかない。それを悟った。

「催眠ガスを持ってこい! 眠らせる!!」

 興奮状態で効くかどうかは分からないが、それでも正常な判断を下し続ける指揮官により、ゆっくりと。だが着実にベルは追い込まれていった。



「流石ボンゴレだね……ここまでの術士を抱えてるなんて」

 レベルそのものは低くとも、幾人もの術士を相手にしながら他の面子の精神を破壊するのはマーモンでも難しかった。噂に聞く術士並みのレベルではなくとも人数が揃えばマーモンを足止めできることがこれで証明されたわけだ。

(あまりやりたくなかったけど)

 ファンタズマの封印を解き放っただけでもかなりの大判振る舞いだというのにこれで割りに合わなくなる。後でXANXUSなりなりに追加料金を貰わなければ。
 ローブの下にあった藍色のおしゃぶりから光が溢れて、一瞬にして術士達が触手で締め上げられた。

「その、おしゃぶりは……!」
「見た以上、口封じさせてもらうよ」

 全員の精神をいっきに全力で破壊する。廃人となったことを確認して、一時的に幻術の世界をマーモンは消した。全力を使うタイミングが悪かった。これで自分の脳は限界だ。すでに術を使うほどの精神力は残っていない。

「頑張ってよね、ボス」

 へたり、と床に座り込みながらマーモンは呟く。

「僕はケチケチしないボスとが好きなんだ」

 おそらく、このセリフをXANXUSが聞いていたなら顔をしかめて守銭奴が、とぼやいただろう。そしては苦笑して、ちゃんとお仕事はしてよ、と言ったに違いない。そんなことを思いながら、マーモンの意識は闇に沈んだ。



「限界、かしら」
「ぼやいてないで頑張ってくださいよルッスーリアさん!!」

 ぽつり、とルッスーリアが言えば部下の中でも上級の者から叱咤が飛ぶ。確かにその通りだ。自分がこんなことを呟いていては、下級部下の士気に関わる。だが

 ――ルッスーリア、引き際も大事だって覚えておいてね――

 のセリフを思い出して、ルッスーリアは嘆息する。あの子はもしかすると、この結果を分かっていたのかもしれない。そんな風に感じながら両手をのんびりと挙げた。

「降伏するから、もう殺さないでね」

 うふん、と腰をくねらせて言うルッスーリアに全員が吐き気を催して口元をおさえる。失礼ねぇ! と憤慨する姿は、ヴァリアーでないものにも気配りをするいつも通りのルッスーリアだった。

「あの、本当に?」
「降伏? ちゃんとワタシがしたじゃない」

 だからさっさと連れてってねぇ、と言うルッスーリアに構成員は苦笑しながら縄をかけて連れて行った。

(ちゃんと引き際は守ったわよ。ちゃん)

 後は、彼女の敏腕を信じよう。



「隊長……もう、これ以上は……!」
「しかしボスのために……」

 ――引き際を忘れないで、レヴィ――

 なんとか持ちこたえよう。そう言いかけたレヴィだったが、にそう言われたことを思い出してやめる。失敗したならば、いつ引いたかが一番大切なこととなる。まだ双方の被害が少ない内に、引くべきなのかもしれない。

「いや……降伏しよう。全隊に伝えてくれ」
「はっ」

 おそらく、彼女ならいろいろとなんとかするのだろう。正直言えば、副隊長のオッタビオなどよりずっと頼りになる女なのだ。ボスへの悪口は多くても。



*******************



「それは本当の話かい? オッタビオ」
「はい。9代目」

 にやり、とオッタビオが笑う。立ち上がった9代目は、自分の武器である杖を静かに取り上げて手の中で1つ回す。ちゃんと使えることを確認して頷き、目線だけでオッタビオに案内を頼んだ。

「はい。仰せのままに、9代目」
「頼むよ」

 言いながら、9代目の瞳は冷たく細められる。オッタビオを見る視線も同様に冷たく、本人だけが気付かない。

(もっとも、己のボスを裏切るような君を信用はできないが……)

 裏切りは、連鎖するものなのだから。



「けほ……」

 体力の限界で、私は咳き込む。女であることを初めて恨んだわね。男なんかよりずっと体力少ないってこういうことなんだ、って思い知ったわ……兄さんに代わろうかしら。

「大丈夫か」
「あまり……兄さんに代わった方がいいかも」
「じゃあ戦うな」
「え?」

 XANXUSが新たな敵に銃を向けて、撃つ。だけど貫いたのは動けなくなるよう太腿。しかもちゃんと、大動脈と大静脈は外して。

「XANXUS……」
「オレの参謀の決定だ。オレが逆らうわけがねぇだろ」

 ふ、と。少しだけXANXUSは表情を緩めて、私を見た。

「少し休め。歩いてはもらうがな」
「分かってる……XANXUS、最初に9代目と剣を交えるのは、私でいい?」
「何故だ?」
「そうしなければ、いけないから」

 荒い息を整えながらの私の言葉に、XANXUSはしばらく私を静かに見つめていたけど鼻を鳴らしてから、好きにしろ、と言ってくれる。私が負ければ、兄さんに代わる。そしてきっと、兄さんも負ける。私達の経験は年齢より多くても、やっぱり9代目の経験値には敵わない。それは年齢であり、あの人の立つ場所は、『ドン・ボンゴレ』という特異な場所である限り揺るぐことのない真実。そしてこれは、XANXUSも同じ。
 私達は負ける。だけれど、私が最初に負けなければ意味はない。

「ありがとう。信じてくれて」

 そうしなければ、私はあなたが凍らされた後にあの人に立ち向かわなければならないでしょう?



*******************



「XANXUS」
「ああ」

 紅い瞳が静かに前を見据えて、ゆったりとした足取りでその人は登場した。

「9代目……」
「やはり、お前達か」

 哀しげな瞳に私はほんの少し罪悪感を覚える。いえ、ほんの少しどころじゃなくてかなりの、ね。結局私はこの人を嫌いになれなかった。この人は間違ってなくて、XANXUSも間違っていない。それを、じっくりと見てしまったから。

「すみません、お命を頂きます」
「君では」

 斬りかかった私を見事に杖で受け止めて、そのまま顎を9代目は殴りつけてくる。上手い、これで私は脳震盪になって動けなくなる……だけど。

(兄さん……!)
《任せろ》

 青色の炎が私を包み、すべての主導権が兄さんに交代する。青い炎の向こうから現れた男に驚きながらも9代目は兄さんの剣を受け止めた。

「共有しているのか、1つの体を」
「オレ達は、そういう存在だ」

 そう。私はあくまで代役。本来この場所に立つのは、スペルビ・スクアーロである兄さん。・スクアーロは兄さんが死産として生まれてしまったことによるイレギュラーにすぎない。だけれど

《それを今は有効活用する。そうでしょう、兄さん》
(分かってるじゃねぇか、

 内側での会話。それに9代目は気付くことなく、私とはまったく違う剣技に少し翻弄される。私の剣が洗練され獲物を狩ることに特化した鯱の剣ならば、兄さんの剣は血の臭いに貪欲に喰らいつく鮫の剣。似ているようでまったく違う剣は、いくら9代目と言えど翻弄されぬわけがない。

「はっ!」

 鋭い呼気と共に兄さんの頭に杖が叩き込まれ、もう一度私達は入れ代わる。すでに私の体の脳震盪は終わった。だけど、おそらく私が持ち応える時間で兄さんが復活することは不可能。出来うる限り、私が9代目を消耗させる。

「体も男と女で入れ代わるのか……」
「兄さんはあくまで時間稼ぎ……そして、私も!」

 大技を放てば外れた瞬間のスキが大きい。だから技を出すこともできずに戦っている私だけれど、それでいい。XANXUSがこれである程度マトモに戦えるようになれば、それで。

「君達は……」
「何も言わないで。私が一番、理解かってる」

 辛そうに9代目は瞳を細めて、私の足に杖を叩き込んだ。

「……っ……!!」

 骨は折れてないけれど、痛みで立つことはできない。私はうずくまり足おさえて、そのまま腹に杖を叩き込まれて柱の1本に叩きつけられた。

「か……はっ!」

 完全に、はいった。
 意識は保っているもののすでに立てる状態でなくなった私は、柱に身を預ける。どこも傷ついていないのに激痛のみがある……なるほど、マフィアのボス。拷問のやり方は知ってるみたいね。拷問の基本は傷を少なく痛みを与える。そうしなければ、折角掴まえた情報源を殺してしまうから。

(兄さん、いける?)
《無理、だぁ……》

 お互いに戦闘不能。それをXANXUSも瞬時に理解したらしく、静かに彼は銃を抜いた。
 そこからのことは、あまり記憶にない。少しの間私は気絶していて、その間にほとんど勝負の結果はついてしまっていた。周囲の壁は抉れて、いろんな場所がXANXUSの炎により風化しているのを見てどれだけ熾烈な戦いだったのかを私は悟る。XANXUSはもちろん、9代目も傷だらけ。手の中に炎を集めながら、XANXUSは余裕なく笑った。

「まさかお前がここまでできるとは思わなかったぞ。老いぼれが……!!」
「家光はお前を殺すなと言ってくれた……だが、これだけ大きなクーデターを起こしたお前を生かしておくわけにはいかん……」

 す、と9代目の瞳が辛そうに細められる。

「せめて、わしの手で……」

 そう呟くように言った9代目にXANXUSがかっ、と目を見開き、やっと本性を出したなジジィ!! と怒鳴った。

「これでお前の念願が叶うわけだ!!!」
「……」

 寂しげで哀しげな瞳を9代目はする。ああXANXUS、あなたはどうしてそこまで、あの人を信じてあげられないの? それでも、あの人はあなたを――

「何故だ、何故お前は……」
「うるせぇ!! それはお前が一番よく知っているはずだ!!!」

 一瞬XANXUSは間を置いて、そして――
 XANXUSは叫んだ。すべてを、今まで胸の中にしまってきたその秘密を。そして9代目を責めて、瞳にどこか絶望が浮かんでいることにも気付かずに彼は手の中の炎を最大まで集めて輝かせる。

「分かったらかっ消えろ!!」
「……みんな、すまん…………やはり、わしには……」

 9代目の杖に灯されていた炎がノッキングするように点滅する。あの技、と私は心の中で呟いて。そしてXANXUSの手が氷に覆われた。

「なんだこの技は……!?」
「すまない……眠ってくれ、XANXUS」
「くそ、ジジィがぁぁぁああっ!!!」

 溶けぬ氷にXANXUSは叫ぶ。私は小さく咳き込んで、ようやくの思いで言葉を出した。

「ザン、ザス……」

 ふ、とXANXUSの瞳に一瞬冷静さが戻る。それを見て、私は少し笑った。まだ私の声は届くよね? XANXUS。なら、私はあなたに伝えなくちゃならないことがあるの。聞いてくれる? こんな、ふがいない私の言葉だけれど。

「待……って、る」

 搾り出した声に、XANXUSはそっと目を閉じる。

(お前が、待つなら)

 唇がそう言葉を紡ぎ。そしてXANXUSは、目の前で初代ファーストエディションと呼ばれる氷の中にその身を沈めた。本当に、原作、通りに。

「ふ……」

 涙が零れそうになるのをなんとかこらえて、私は氷を仰ぐ。XANXUS、XANXUS……あなたはやっぱり、そこで8年眠るのね。それでも、私は待つよ。きっと、みんなも待ってくれる。ちゃんと、私達は待ち続けるから。
 腹にあった激痛がようやく少しおさまって、私は深く息を吐き出す。終わった。これで、『揺りかご』は終わり私達は次のステージへ進む。

……君は」
「すみません、9代目……すべてを知っていたのに、私は何もしませんでした」

 謝れば、みたいだね、という言葉。

「でも、こうでもしなければ、あの人の心は怒りに囚われたままだったでしょう?」

 いつかその怒りは、あの人を殺した。いつかその憤怒は、あの人の冷静な判断力すべてを奪った。ならば、一時の裏切り者に身を堕とし、そして戻ってきた方があの人のためだった。18年後のあの人は、ちゃんとすべてを飲み込める器となるのだから。

「そうだね」
「なら、私は間違っていなかった」

 息を吐き出して、柱に私はもたれかかる。8年、ある。その間に私はヴァリアー内部を完璧なものにする。ベル、マーモン、ルッスーリア、レヴィ、そして兄さんと一緒に。暗殺部隊ヴァリアーで隊長に逆らう者を二度と出さないように。それが私の仕事。

「あの……9代目、後始末は私に任せていただけませんか?」
「構わないよ。君になら、任せられそうだ」

 意外な言葉に私は目を見開き9代目を見上げる。穏やかな笑みを浮かべた9代目は、そっと膝をつき私と視線を合わせてくれた。

「ありがとう、息子のことをそんなにも想ってくれて」
「9代目……」

 XANXUS、あなたの想いだってちゃんと報われていたのよ。この人はちゃんと、あなたを『息子』だと呼んでいる。あなたを愛していないわけじゃ、なかった。

「君のおかげで、あの子はあんなにも穏やかに眠れた。憤怒ではなく、安らぎの中で」

 そう、なのかな……。そう兄さんに私が問えば、まあそうだろうなぁ、とどこか不満そうな返答。そうであるなら、私の行動も報われる。でも兄さん、なんでそう不満げなの?

「ヴァリアーを引かせたのも君だろう? そういえば、つい最近強力な催眠ガスを注文していたそうだね。後、数人の術士を雇ったりとか」
「う」

 全部バレてる。強力催眠ガスはベル抑止のため。術士はマーモンを早く疲労させるため。引き際を考える2人にはそういう意味の言葉を渡して、私はこのクーデターに臨んだ。けど、全部9代目にバレてるのは予想外。

「術士は、多分精神を破壊される前に私が渡した特殊防壁を張りなんとか持ち応えたと思います。ある、マーモン以上の術士の頼んで作ってもらったものなので信憑性はありますよ」

 その術士は六道 骸。接触を取るのも仕事を請けてもらうのも大変だったしお金もかなり取られたけど、それだけの価値のある仕事をしてくれたからいいとしましょう。どうせ、18年後は協力関係なのだし。

「そこまで手回ししたのかい?」
「それくらいしないと、手加減を知らない人間ばかりなんです。ヴァリアーは」

 だけどその苦労もどうでもいいと思うくらいに、私はみんなが大好きだから。

「君も限界だろう? 眠りなさい。1日くらいなら、わしでなんとかできるよ」

 頭に手を置かれる。その感触がXANXUSによく似ていて、ああやっぱり親子、という思いを最後に私は意識を手放す。似ていないようで、とても似ているのだ。この、親子は。


 こうやって、後に『揺りかご』と呼ばれるクーデターは終結を迎えた。

















あとがき
何故か1日で2話書き上げたバカです。
揺りかごは終わっても後始末があります。というわけでそこまでが第2部なのでもう少しお付き合いくださいまし。うふふ、あと2話で第2部も終わるから……後残り話数がかなり少なくなってきましたね。大体ここで折り返し地点でしょうか。
ジェットコースター昇ったじゃん、とか思われたでしょうが、もう1回落とします(ぇ)   残り2話だし次くらいで落ちてくれればいいな。プロットではそうなってますがなるかどうか……(をい)
9代目のキャラが分からない……orz     あ、では次の更新でー!!

09/05/21