「ただいま」

 9代目に介抱してもらい戻ってきた私を迎えてくれたのは、いつもと変わらぬみんなの笑顔だった。

『おかえり』

黄色の虹

 クーデターを起こしたヴァリアーには当然ながらに処分がくだされることとなる。最初は数名を死刑に、という物騒な意見まで出ていたけれど、唯一反乱に加わらなかったオッタビオが庇ったことでそれはなくなった。理由としてベルが幼すぎること、ルッスーリアやレヴィ・ア・タンにマーモンの戦闘能力が極めて稀有なこと、そして私の処理能力と兄さんとの関係――この一件で私達の特異性も明らかになった――が観察に値することなど。それなりの理由をそろえて、彼は私達を庇ってくれた。

「それに」

 そして、9代目が最後にこんなセリフを放ったのも大きかっただろう。

以外に誰がこの一件を片付けられるんだい?」

 まずヴァリアーが彼女以外の言葉を聞き入れないんじゃないかい? という9代目の言葉は至極もっともで、全員が確かに、と頷きヴァリアーの処分は活動停止でなんとか食い止められた。
 ただしそれは、私にかなりの負担がかかることになる一言でもあった。
 元々被害を最小限にする手は打っていたからまだマシだったけれど、何よりそれに気付いた時のみんなの反応がかなり怖かった。お前そんなことを、と目だけで責められて私はす、と視線を逸らす。どう考えても成功しない作戦だったからちゃんと後々のことを考えたのに。

「まあ、大体分かってたけどねぇ」

 ルッスーリアの言葉に全員がえ? という顔をする。もちろん、私も。

「だってちゃん、この頃忙しそうだったじゃない」

 そりゃあ六道 骸との交渉が本当に、本当に大変で……あの男、私の情報どれだけ持っていったか分かりやしない。六道 骸でなければ私だってあそこまで譲歩したりはしなかった。僕はマフィアが大嫌いなんですよ、とか言いながら商売相手にしかマフィアわたしを見ていないことが丸分かり。金じゃ足りませんよ、とかいうセリフで一体どれだけの貴重な情報をタダで渡しちゃったのかしら私……。

「……?」
「ああごめんなさい。ちょっとある交渉相手思い出して」

 マーモンの呼び声に私は我に返りふぅ、と溜め息をつく。今頃機嫌よくクフフ、って笑ってるんでしょうね。彼。

「そんなにぼったくられたのかい?」
「ええ。あなた以上にぼったくられたの私初めて」
「そんなにか」

 マーモンの問いに真剣に私が頷けばレヴィがぞっとしたような声で言う。ええそんなによ。そういう意味で頷けば、全員が憐れみの目を向けてきた。ホント、敵対マフィアじゃなくてよかったわ。彼が。

「まあどうせ、7年後にちょっとした少年に捕まって牢獄放り込まれる男だからいいとしましょう」
「なんで分かんだよそんなこと」

 ベルのツッコミに私はくすり、と笑って人差し指を立て口元に当てた。

「企業秘密、よ」

 まさか私が10代目となる男、沢田 綱吉の未来とヴァリアーの、言うなればボンゴレの未来の一部分を知っているだなんて言えるわけないもの。それも、今の『私』になる前の『私』が物語としてすべてを見た、だなんてね。

「ちぇ」
「諦めるんだね、ベル。の秘密主義は今に始まったことじゃないだろ」
「そうだけどさー」

 あなた達、気付いていないんだろうけどそれかなり失礼なやり取りよ……?

《お前も悪いだろうがぁ》
「放っておいてくれる? 兄さん」



*******************



 そんなこんなで、私の後始末は数週間続いた。書類をミスったりすることはなかったけれど、中の兄さんが暴れられない、と拗ねだすのにはちょっと困った。

「髪、伸びたわね」
《切るなよ》
「切らないわよ」

 自分で決めたのに切るバカがどこにいるのかしら。ずっと、伸ばすって決めてるんだから余計なお世話ってやつよ、兄さん。

「枝毛は嫌ねぇ」
《オレのテクがあれば髪は傷まねぇぞぉ》
「体が違うでしょう。あ、言っとくけど兄さん、私の体で兄さんだけ出てきてみても変態になっちゃうからやめてね」
《やるかぁぁぁっ!!!》

 冗談なのに大声での抗議が返ってきて私は無言で耳を塞ぐ。内側からの声だからそんなことをしても意味はないんだけれど、やりたくなるくらいの大声なのよね。兄さんのって。

「うるさい」
《誰のせいだぁ》

 不機嫌な声に私は、さあ? ととぼけてみせる。手元の書類を今日は9代目に渡して、後は建物の修繕の資金見繕いの書類を見直してお仕事は終了かしら。そんなどうでもいいことを考えれば、ふん、と兄さんが鼻を鳴らす。XANXUSに似てきたわねぇ、と思えばあ゛ぁ゛? という声。分かりやすい。

「失礼します」

 ノックをして入れば9代目が優しい笑顔で出迎えてくれた。そこまでは普通なんだけど、部屋にあるソファーには1人の赤ん坊が偉そうに座っている。その向かいに今日は9代目が座っていて、ありがとう、なんて声をかけてくれる。だけど私は驚いて、はあ、という声しか出せなかった。

「こいつがか?」
「そうだよ、リボーン」

 どうしよう、本編のメインメンバーに会っちゃった。逃げちゃおうかしら。

《やめとけぇ》
(だって、ねぇ……)

 一応ディーノから話を聞いてるしどんな人かも大体把握してるけれど……正直、私あまり関わりたくないのよ。気に入られたら後悔するタイプだと思うの、この人。

「お前、失礼なこと考えてないか?」
「全然。ご高名なリボーンさんにそんなこと考えませんよ」

 にっこり笑えばほう、という声を漏らすリボーン。自分がアルコバレーノだっていう自覚が一番薄いのがこの人だと思うのよね、私。マーモンですらあそこまで気を遣ってるのにこの人まったく関係なく目立ちまくってるし。

「敬語はいらねぇぞ。
 お前のことはディーノと9代目から聞いてる」
「え……?」

 ディーノ。久々に聞くその名に、私はおもわず声を漏らしてしまった。

 ――――

 太陽みたいに明るいあの声を思い出して少し目を伏せる。酷いことしちゃったな、とは思うけれど、しなくちゃいけないことだったとも分かってるから後悔はしていない。一度首を振って、私は気を取り直した。

「あいつが惚れたのも分かるな。愛人にしてぇくらいだ」
「……悪いけれど、赤ん坊に抱かれる趣味はないわ」
「ま、今のオレじゃ確かに無理だな」

 この理不尽さはマーモンに通じるものがあるわね。確かに。私は思いながら溜め息をついて書類を9代目に提出する。

「大体リボーン、彼女はXANXUSのものだよ」
「ちょ、9代目!!?」

 ほぼ不意打ちの9代目の言葉に私は大声で抗議する。からかうにも程があります、9代目。

「違うのかい?」
「違いますよ!」

 私の言葉にぱちくり、と目を瞬いて9代目は苦笑した。そして奥手だったんだね意外にあの子も、などという意味の分からない言葉を呟く。あのそれ、どういう意味ですか?

「よくできてるな」
「それ、9代目に提出したんですが」
「敬語はいらねぇ。許可はもらったぞ」

 私の書類を見ながらリボーンはぽつ、と呟く。歩く治外法権は私の抗議を物ともせずに自分の要求を通しながらひら、とまたページをめくる。ふむ、と唸ってから読み終わった書類を机に置いて、リボーンは私を見た。

「どこで書き方を覚えたんだ?」
「学校で教わったのを、私なりに工夫しただけよ?」

 書類の書き方、なんてそこでしか教わらないじゃない。そういう意味での言葉だったけど、工夫ってレベルじゃねぇぞこれは、と言われて私はそうかしら、と首を傾げる。

「XANXUSもよくこんな逸材を隠したな」
「それだけ取られたくなかった、ということだよ。引き抜かれないようXANXUSも必死だったんだろうね」

 そういえば兄さんとXANXUSに私は言われたことがある。お前は戦闘にも秀でているが、それよりずっと事務系に秀でている、と。戦闘に関しては才能云々もあるけれど私の努力の結果。対して事務系の方は完全なる才能。引き抜かれるわけにはいかねぇな、とXANXUSがその時だけぼやいていたことを思い出した。

「理性の妹、戦闘の兄……なるほど、クーデターを最小限にとどめるわけだ」

 リボーンがにやり、と笑い、本当に欲しくなったぞ、と私に言う。あなた、フリーのヒットマンでしょうに。それに私はヴァリアーに属してるんだから無理に決まってるじゃない。

「ディーノが惚れるわけだ。だが、あいつにはもったいなさすぎたな」
「リボーン、あまり彼を悪く言わないで」

 私がそう言えば、くつり、とリボーンは笑う。

「そういう意味じゃねぇ。あいつとお前じゃ、つりあわねぇっていう意味だ」

 結局あまりディーノを褒めてないのに変わりはないじゃない、と私は呆れる。内側で兄さんがリボーンの言葉に賛同したから後で殴ってやろうかしら、と本気で考えた。大切な親友なのよ、兄さん。あんなのだけど。

《……お前は無自覚だからタチが悪ぃんだ》
「へ?」

 問い返そうとしたその瞬間、荒々しいノックの後に構成員の1人が飛び込んできた。

「ああよかった……9代目もさんもお揃いで」
「どうしたんだい?」

 私の名前が出た瞬間に、私は自分のことで何かあった、ということを悟る。一体何が、と思いながら男を見れば、言いにくそうに少し言葉に詰まった後、それが、とようやく切り出した。

「一部の者達が・スクアーロを引き抜くべきだ、と……何故か急に発案しまして」

 それも強硬に言い出しており、止められないんです。
 XANXUS、と9代目が小さく呟いてリボーンがボルサリーノのつばを下げて表情を隠す。そして私は、足元が失くなってしまったような感覚に、怖気を感じた。

(XANXUS、私は……)

 どうすれば、いいの?
 問いに、氷の中で眠る彼が答えてくれるわけもなく。私は、無意識の内に爪が食い込むほどに手を握り締めていた。

……》
(にい、さん)

 怖いよ、と。胸の内で囁いた声は、私らしくなく弱々しかった。

















あとがき
というわけで落としました。ヒロインかわいそー、とか思わないでください。時雨はこんな連載です(しつこい)
いろんな思惑が絡まって物事は進んでいくんだ、というのをここでは出したいのでいろんなキャラが出てきます。それこそいろんな役柄で。リボーンはちょっとした横槍役、9代目は間接原因、XANXUSは見たとおりだったり、まあ悪役もちゃんといたり。とりあえず第2部で一度は全部完結して第3部でちゃんと完結、に、したい……なぁ。あはは。
多分月歌と大空を更新します。そろそろやらないといけないので。
では次の更新でー!! 今日にやる予定ですが

09/05/22