「いいのか」

 夜中にベランダで静かに夜空を見上げていた私の後ろから唐突に声がかかる。気配を消さなくてもいいのに、と思いながら驚くこともせずに――これがしょっちゅうじゃ慣れるでしょ?――私は振り返った。

「何が?」
「オレに付き合うことだ」
「……どうして? あなたが私のボスで、私達の道標なのに」

 紅い瞳は、常の激情を見せずに静かに私を見つめている。どこまでだって私はとぼけてみせるわよ、XANXUS。あなたが私の何か一部分にでも、気付いているのだとしても。

「ふざけろ。てめぇは知ってるんだろうが」
「なんのこと?」

 そこまで気付いていたことに驚きながらも、私はひょい、と肩をすくめる。ちっ、とXANXUSは本人の目の前だというのに盛大な舌打ちをしてみせて、ごまかすな、と言い捨てた。

「この作戦の結末を、だ」
「XANXUS……? あなた、もしかして」
「なんのことだ」

 ああ、とぼけられた。
 じゃあきっと、私もこうするべきなんだろう。すべてをこの人は分かってる。頭のいい人だから、シュミレーションをすれば結果なんて丸分かりだったんだろう。それでも、せざるを得ない行動ならば

「そうね。なんのことかしら」

 私はどこまでだって、あなたについて行きましょう。
 笑えば、XANXUSはぎろり、と私を睨みつけてから盛大にもう一度舌打ちをして、バカが、と呟いた。私はそれにまたくすり、と笑った。だって、あなたがバカなんだから、私もバカに決まってるでしょう?

任務スタート

 朝がきた。任務を開始する朝であり、終末を祝福する朝。そしてXANXUSが、ふ、と口元を歪めて宣言した。

「始めるぞ。
 老いぼれを引きずりおとし、ボンゴレを手に入れる」
『si』

 私は左手の剣を振り、ベルはナイフを取り出して笑う。マーモンは頭の上のファンタズマの封印を解いて、レヴィは気を落ち着かせるためか鼻息を深く吐き出し、おほほ、とルッスーリアはいつも通りに笑った。他のメンバーもそれぞれ自分の武器を構えて、そしてXANXUSが銃を取り出す。

「XANXUS、オッタビオは……?」
「さあな。何か思惑があるんだろ」

 ああ、またこの人は気付いている。
 そのことに私も気付いて、す、と瞳を伏せれば荒々しく髪が乱されて、私は驚いてXANXUSを弾かれたように見上げた。XANXUSの表情はただ静かで、穏やかで。

「てめぇは黙って、オレの後ろにいればいい」

 その言葉に私は一瞬目を見開き。そしてすぐに笑って、はい、と頷いた。この人がそう言うのなら。この人の言葉なら。そう思いながら、私はXANXUSを見上げる。

「仰せのままに、XANXUS」
「それでいい」

 満足げな声。すたすたと歩き出す彼の後ろに、私は黙ってついた。

《ちっ、無自覚男がぁ……》
「どうしたの? 兄さん」
《なんでもねぇ!! 鈍感がぁ!!!》

 兄さんの呪詛の言葉に私は目を瞬いて問いかける。そうすればどこか拗ねた罵り文句が返ってきて私も流石にむっ、とする。何よ鈍感って。そんな風に言われるようなこと私、何もしてないじゃない。

《してるだろうが》
「どこがよ」
《気付け。頼むから自分で気付いてくれ》

 だから、何が。
 兄さんの懇願の意味が分からずに私は眉根を寄せる。兄さんの深い溜め息に酷いじゃない、と思いながらもこれ以上話してくれる様子がないので諦めて、そしてボンゴレに私達は突入した。



「あーあ、またボスが無意識に口説いてるよ」
「いつもじゃない。気付かないちゃんもちゃんだけど」

 ベルの呟きにルッスーリアが両掌を上に向けてひょい、と肩をすくめてみせる。女性っぽい動作をするのは別に個人の趣味なのだが、筋肉質な体でそれをされるとかなり目の毒だったりする。す、と自然と全員が目を背けた。

「失礼ねぇ! アナタ達!!」
「ルッスーリアが目の毒なんだよ。
 まあ、中のスクアーロが大変だね。あれじゃ」
「前からだ」

 マーモンが宙にふよふよ浮きながら呟けば、ふん、と鼻を鳴らしながらレヴィが言う。その通りなので全員が納得してしまった。兄が苦労し続けて妹はまったくそれに気付かず、そしてXANXUSの行動がすべて無意識なのも全員が入隊した頃にはすでに日常の光景だったのだからその反応も当然のものである。

「じゃま、オレ行くぜ。王子一番乗り〜」
「ちょ、待ちなさいよベル! じゃあワタシも行くわね〜」
「僕も行くよ」
「お前ら! 部下の割り当てを……!!」

 レヴィが引きとめようとしたものの、誰も聞いちゃいない。しばらく無言でレヴィと部下一同は立ち尽くしたが、ふぅ、とレヴィは溜め息をついて部下達を見た。

「好きなところに行け。ただし、ボスとの所とベルの所に行けば命の保障はせん」

 前者はXANXUSの不機嫌に巻き込まれて。後者はベルのキレっぷりに巻き込まれて。どこに行こうが命の保障はできないがこの2つが一番危険だと判断したレヴィはそう言って歩き出す。部下達の数はレヴィに7。ルッスーリアに2でマーモンに1という割合になったことは、言うまでもないだろう。



*******************



「ししっ、雑魚だらけ」
「ヴァリアーのベルフェゴール……? 知らないのか? 今屋敷内でクーデターが」
「知ってるよ。だって」

 ナイフが、ボンゴレ構成員の1人を斬り捨てた。

「首謀者、オレ達だもん」

 空気が凍ると同時に血が幾筋も舞う。それだけの人数が斬られたのだ、ということを理解した瞬間に、1人が恐慌状態に陥りベルの頬を銃弾が掠った。

「バカ! あいつは……!」

 言いかけた男の喉が裂かれ、数箇所にワイヤーの傷が同時に走る。同様に数人がまた殺されて、銃でベルを撃った男は恐怖に叫んで同じように殺された。
 切り裂き王子プリンス・ザ・リッパーの本領は、血を見た瞬間から始まるのだ。



「ああ、来たよ。ファンタズマ」

 呟くようなマーモンの声に巻きガエルは鳴いて返事をする。

「マー、モン……?」
「バカなヤツらには」

 マーモンが脳裏に描いた世界が廊下の面積を無視して広がる。完成度の高い幻術に、全員が焦りを見せた。

「悪夢を見てもらおうか」

 叫びが木霊して、その叫びを聞きつけた者達が幻の世界の新たな犠牲者となっていく。念写用の紙が触手となり男達を襲い、媒体無しの幻が男達の精神を破壊していく。術士の暴力は普通の暴力よりも、タチが悪いものだということをその身をもって構成員は思い知った。

「まあ、僕の能力がどこまでもつかなんだけど」

 呟くように言いながら、脳裏には世界を描き出し幻術として構成する。
 されどいつ脳の限界がくるのかは、マーモンにも予測できないことだった。



「もう! 倒しても倒してもキリがないわねぇ!!」
「ルッスーリア様、落ち着いてください」
「あらぁ? ワタシは落ち着いてるわよぉ。あなた達こそ、装備の整備はちゃんとしなさいね」

 部下達の援護をうまく使いながらルッスーリアはボンゴレ構成員を倒していた。なんだかんだ言ってこういう場面での部下の使い方がうまいのはルッスーリアだ。配置などを個人の能力に合わせた場所に敷き、この場をうまく凌いでいた。そう、やりすぎる必要などない。凌ぐ程度でいいのだと、ルッスーリアは理解している。

(でも、)

 そして同時に、最終的にはXANXUSにすべてがかかっていることもルッスーリアは理解していた。

(9代目の動向も気になるのよねぇ。それに、ちゃんも)

 のどこか悩ましげな表情も、ルッスーリアの不安を煽る一因だった。



 レヴィの戦い方は外が向いているために、彼は援軍を徹底的に潰す役割だった。部下達は巻き込まれない場所で戦い自分は遠慮なく雷を打ち出す。彼自身もルッスーリアと同じく人を使うことが得意な者だった。

「D部隊は西を足止めしろ」
『Si』
「G部隊は南西。B部隊は北北東」
『Si』
「次に……」

 ただルッスーリアより器用なのは、戦いながらでも状況を把握し全部隊に指示を伝えれる点だろう。雷撃隊という特殊な隊を持つことが許されているのも、XANXUSによりその点が認められたからだ。

「ボスのために全力を尽くせ!!」
『はいっ!!』

 そんな彼だからこそ、意外と人望も厚いのである。



「ごめんなさい」

 私は小声で謝りながら、敵の1人をみねうちにする。剣の腹で全員を眠らせて、少しだけ息を吐き出した。

「片付いたか」
「ええ。これでしばらくはここも大丈夫」

 XANXUSは片手で銃を弄びながら、私の倒したボンゴレ構成員達を無感動な瞳で見下ろす。みねうちか、と呟いた姿はちょっとだけ不機嫌そうだったけれど気にせずに私は全員を1人が持っていた紐で縛り上げた。
 後々のことを考えれば、これが正しい行動よ。そうでしょう? XANXUS。

「お前はいつも、考えすぎだ」
「あなたが考えないから、私はそれくらいで丁度いいのよ」

 XANXUSの言葉に私はイヤミも込めて言う。だって本当に彼は何も考えないから、全部私が頑張ることになるんじゃない。別に、嫌だとは思わないけれど。

「……まあいい。
 行くぞ、

 前を見据えたXANXUSのセリフに、私は剣の状態を確認して頷いた。

「ええ」

 どこまでだって、私はあなたと一緒に行く。


















あとがき
これさっさと完結させようか、と思いこういう流れになりました。
プロット完成してるのにやらないバカです。これで第二部完結までは残り3話。ぱっぱと更新します。これだけでも完結させないと連載数がかなり飽和状態なので。終わったら大空とか月歌とかもちゃんと更新しないとなぁ。ジェットコースターのこの話はかなり書きやすいです。短時間で昇って降りるので(笑)
アンケート返信はブログで行わせていただきます。では拍手返信

20日20:23 フリリクしてくださった方
 山本との掛け合いですね。了解です!! 大体時間設定はもっさんが大学生くらいでよろしいでしょうか? 多分ヒロインと山本の関係はそれです。ほけほけしてるのでお互いにあんまり気にしませんが、兄がかなり苦労するんでしょうね(笑
(酷)
 あ、あと、お名前教えていただければ助かります!! リクエスト部屋にあるような形で今回もやらせていただきたいので。フリリクありがとうございます!!! 7月になりますが、気合入れて書かせていただきますので!!(頑張りすぎ)

反転1ヶ所あったりします。
では次の更新でー。

09/05/21