よく考えてみると、あのXANXUSの言葉は私を試していたのよね。
そう兄さんに言うと、そうだなぁ、とどこかふてくされた返事。気付けなかったことが悔しいらしくて、兄さんは結構拗ねていた。子供っぽい。
「いいじゃない、あの人なら」
《ま、そうだがなぁ》
あの紅色が、きっと私達の道標だから。
願かけ
・スクアーロがヴァリアー隊長の資格を放棄したことにより、いっきにヴァリアー内の勢力構図は変化した。がボスになる、ということを前提でいろいろと地盤を固めていた者達は出鼻をくじかれ、XANXUSが隊長として君臨することがほぼ決定事項となった。
自身はXANXUSが気に入り膝を折ってもいいと思ったからこそ放棄したわけだったが、周囲をあまり顧みぬ行動はいくつもの弊害も与えた。
1ヵ月後、ヴァリアー隊長として正式にXANXUSは任命され幹部も一新。はもちろんだったが、レヴィ・ア・タン、ルッスーリア、ベルフェゴール、マーモンというクセも強いが実力はある面子がヴァリアーの上位を陣取ることとなる。
*******************
「就任おめでとう、ボス」
「……」
私がからかい混じりにそう声をかけると、XANXUSはギロリ、と私を睨んだ。何故かこの人は、私に『ボス』と呼ばれるのが嫌いらしい。だから私もからかうのにね。
「ゴメンゴメン、XANXUS」
「ふん」
ちゃんと名前で呼びなおすと、鼻を鳴らしたものの満足そうな顔をする。意外と表情豊かだと私が気付いたのはこの頃。感情を言葉にはしないけど、目や表情ですべてをこの人は語っている。
「その左手で戦えるのか?」
「ああ……そうね、そろそろ義手職人を探さないと
私は呟いて、未だ手首から先のない左手に視線を落とす。この状態になれちゃったけど、ダメなのよね。よく考えると。剣士としての能力も落ちちゃうし、私一応左利きだし。
誰かが職人紹介してくれるの待ってたんだけど……まあいいわ。探しましょう。
「職人なら紹介してやる」
「ホント? ありがとう、助かるわ」
ああ、この人が紹介役だったのね。と私は内心だけで呟く。
この瞬間まで待っていてよかった、と思いながら私はXANXUSの横に立つ。ベランダから見える景色は、広く雄大。緑と水の多いイタリアならではの景色が、私の心に響いた。
「ねえ、XANXUS」
これから先のことは、すでに頭に叩き込んだ。そしてそれが、原作通りに進んでいるのも私は分かってる。だけど、この哀しい人と一緒に行こうと決めたから。
行動が原作の『スクアーロ』と同じでも、こんなことでしか私は祈れないから。
「私、あの計画が成就されるまで髪は切らない」
いぶかしげにXANXUSは眉根を寄せて。私は笑う。
《何言ってやがんだぁ、》
兄さんも内側からいぶかしげな声をあげたけど、今話してるのは兄さんじゃなくてXANXUSだから返事をせずに私はXANXUSを見つめる。
「私なりの願かけ。折角だし、いい機会でしょ?」
「くだらねぇ……てめぇはそれでいいのか」
女の髪の大切さは、イタリア人らしく分かってるのね。
剣を振るう時に鬱陶しいから、私は今まで髪を伸ばさなかった。汗をかけば顔にへばりつくし、長い髪は手入れも大変。そんな面倒づくしなことを、以前の『私』はしても私はしようと思わなかった。だけど。
「あなたのためなら、なんだっていいわ」
あなたの願いが叶わないものだと知っているのに、私はそれを言おうとしない。これはきっと、あなたに対する酷い裏切り。そして私は同時に望んでもいる。この人の願いが叶って欲しい、と。切実に。
叶わなくても、ちゃんとこの人はいろんなものを乗り越える。それでも、今のこの人の哀しみは本当のことで、未来にちゃんと吹っ切れるから。という一言でどうにかできるものでもなくて。
「私はあなたと一緒に行く。だから、これが私なりの覚悟」
XANXUSの瞳が私を見つめて、私は笑ったままにXANXUSを見つめ返す。
《、代われ》
言われて私は目を閉じて。青い炎に包まれて、私は内側の存在となり兄さんが外側の存在となる。こういう瞬間にいつも、私は私の歪さを感じてしまい落ち込んでる。その度に兄さんに怒鳴られるんだけどね。
「まあ見てろ、御曹司。
オレとの覚悟をな」
突然代わった私達に、苛立たしげな目をしながらもXANXUSは黙って兄さんの言葉を聞く。
「これから先、お前はオレ達を仲間にしたことに感謝する日が必ず来る」
その言葉にXANXUSは楽しげに目を細めて、代わりやがれ、と兄さんに言い捨てた。兄さんは頷き私と内外を代わり、私の視界すべてが目を開ければXANXUSに埋め尽くされていて。
「ざ、……」
「感謝、させてみやがれ。」
にやり、とXANXUSが笑う。私は驚きに目を瞠り、そしてすぐにまた笑った。
「ええ」
兄さんが、もう一回、と言ってきて、また? と私は言いながら代わる。二度目の入れ替わりにXANXUSの表情がちょっと怖くなってて私は逃げたくなった。
「お前も髪を伸ばせ、XANXUS!」
「ざけんな」
兄さんは頭を掴まれて、大理石の手すりに額を打ち付けられる。痛くはないけど視界がモロに兄さんだから、なんだか痛い。私は内側で顔をしかめて、兄さんがいてぇぞ!! と苦情をXANXUSに言ったけどいつも通りに無視された。
私達はまた代わり、書類仕事を終わらすために私は道を行く。私は、歩いている途中にふと思った疑問を兄さんにぶつけた。
「兄さんって、M?」
《違ぇっ!!!!》
盛大な抗議に、耳が痛くなった。
*******************
届いた義手に私は使い心地を確認する。原作の『スクアーロ』が使っていた義手そのままの機能に驚いたけれど、便利さに顔が緩むのは止められなかった。
「いいわね、これ」
《オレ達の剣にぴったりだなぁ》
「あら、兄さんの剣が荒っぽいからでしょ?」
からかいの言葉に兄さんが、何? と剣呑な声で言ってくる。くすくす、と私はおかしさに笑って、兄さんはそんな私に何を言っても通じないことを悟ったのかクソッ、という捨てゼリフを残して拗ねる。それもおかしいくて私はまた笑った。
「さあ、戻らないとベル達がぐずぐずうるさいわ」
《……お前は世話係か》
「違うけど……私かルッスーリアの作ったご飯しか食べないんだもの」
苦笑して私は肩をすくめて、兄さんははぁ、と溜め息をつく。なんだか失礼な反応、と思い私が兄さんに向かって冷たい視線を心の中で向けるとたじたじと兄さんが視線を彷徨わせる気配。負けるなら言わなければいいのにね。
「いいじゃない、かわいいし」
《……かわいいだぁ?》
私はかわいいと思うのに、兄さんから同意の気配が返ってくることはなかった。みんなのいる部屋につくと、すでにルッスーリアが仕度を始めていて私は急いでエプロンをつける。
「ごめんなさい!」
「いいわよぉ、ちゃんも忙しいでしょ?」
オカマ口調だけど、結構常識あるルッスーリアの言葉にありがとう、と私は言った。ごーはーんー、と喚くベルをレヴィがおたおたとなだめており、綺麗に無視しているのはXANXUS。マーモンはのんびりと机の上に座っていた。ちょっとくらい手伝ってくれてもいいのに、と思うけれど、そんなことを絶対にしない人達だということも分かってるから何も言わない。ムダだもの。
(ねえ、兄さん)
ご飯の仕度をしながら、私は内側の兄さんに話しかけた。
(楽しいわね、毎日が)
しばらくの無言の後に、兄さんがふっと笑う気配。そうだなぁ、と言って、兄さんも頷いた。
《悪くねぇな、こんな毎日も》
14歳の今、私達はディーノと別れた傷も気にさせれくれないような毎日の嬉しさにのんびりと笑いあった。もうすぐすべてが崩れるのだとしても、今だけは――
「ちゃーん、お魚の方お願いできるかしらぁ?」
「あ、はい!」
使い慣れない義手は、まだ少しぎこちなかった。
あとがき
とうとうテスト1週間前なのに更新しております。勉強の息抜きで書いてました。勉強してるんだろうか私……(自分でも分からなくなってきた) ノーパソにビルダー入れたので使いやすくなりました。代わりにたくさんいらないもの消しました。全部私のじゃなかったとかは、まあ、お約束で。
なんだか昨日の1時くらいサーバーで問題あったみたいですね。いけなくてびっくりした……orz
そろそろ時雨も二転目に入ります。そう、揺りかごです。ちゃんと年齢計算してみました。転んで章が終わるのが時雨なので転ばせるのが楽しいです。ジェットコースターのイメージで。落ちてもちゃんと上がってきますのでご安心を。……またシリアス入るけど。
では次の更新でー
09/05/10