ヴァリアーの隊長候補として、そうならなくとも幹部には必ずなる者として。私は、ボンゴレ主催のパーティに呼ばれることとなった。

(流石にこれは行かないと、ね……)

 ただでも落ち込んでるのに、こんな面倒な行事に参加しないといけないなんて。内心だけでぼやきながら私は準備のために立ち上がる。これが、新しい始まりだとも知らずに。

パーティ

 どうやっていい義手を作ればいいのか分からないままだから、私は失った左手首の分の袖を余らせて服を着る。目立つかもしれないけれど、テュールと戦い勝利した証ではあるから別にいいんだけど。

《どんな腹の探りあいがあるんだろうなぁ》
「私なんかと、そんなことする人はいないでしょう?」

 首を傾げた私。兄さんがくつ、と喉を鳴らす気配が私の中から聞こえてきてどこか楽しむような声音で言ってきた。

《そうでもねぇぞぉ》

 言って、いろんなことを兄さんは説明してくれる。
 なんでも、未来のヴァリアーのボス……そうでなくても幹部級の実力をすでに持つ私とのコネを持ちたいと思う者はかなり多いんだとか。ヴァリアーはボンゴレの中でも特殊な部隊だから、繋がりを持てるものなら持ちたい、と。つまりは下心たっぷり。
 嫌ねぇ、と私は呟いて。だな、と兄さんが内側で笑った。
 この不思議な関係は、兄さんが目覚めてからずっと続いている。もうディーノと別れた日から半年近くが経過して。ヴァリアーの準幹部として、私は今ヴァリアーに籍を置いていて幹部になる日も近いみたい。噂だけど。
 兄さんには出てくるな、と言い聞かせているから私達の秘密はバレてないみたいだし、今のところはなんとか順調。あとは、彼と出会って……

《獲らぬ狸の皮算用、だぞぉ》
「分かってる」

 ぴしゃり、と一言で兄さんのからかいを私は切り捨てた。分かってる。いつ、どうやって、彼と出会うのか私にはどうやったって分からない。ある程度のあらすじだけは知っていても、結局生きているのは私で。未来なんて不確かなものだから仕方ないことだって。だけど、それでも、私はちゃんと彼と出会えるのだと信じて。

(ああ、ダメ。ネガティヴ)

 私は内心だけで自分の考えをなんとか否定して深く息を吐き出す。まだパーティ会場にも着いていないのにこんなに考えてちゃ、ダメよね。
 そう考えてリラックスした私。兄さんが、ちゃんと考えられるようになったじゃねぇかぁ、と内側から楽しげな声が聞こえてきてちょっと不機嫌になる。本当、私と兄さんは似てない兄妹だと思う。私は心配性で、兄さんは豪胆。どう考えてもこういう関係じゃなかったらお互いに斬り合いしてたわね。
 私のそんな考えを分かってるクセに兄さんは無視して、もうすぐ着くぞぉ、と言ってくる。私は顔をしかめながら、車の窓から外を見て。驚きに目を瞠った。
 巨大な城、美しい庭、芸術的な噴水に整ったレンガの道。ボンゴレの所有する城の1つを見て、私はほう、とおもわず嘆息する。イタリアの広い敷地というものを実感せずにはいられない。西洋ならではの芸術センスは、私の好みでもあるから本当に美しいと感じられる。

「ここが、パーティ会場……」

 呟いて私は視線を逸らす。こういう公式の場が苦手な私だけれど、出なくてはならない時はいつだって傍にいてくれた人がいたのに。その人はもういないのだと思うと、辛い。選んだ道だと分かっていても、恋しさだけは胸にあって。
 膝の上で手を握り締めて、私は前を見据えてその考えを払拭する。後悔しない。決めたのは、誰でもない私だから。

舞台ステージに、上がるわよ。兄さん」
《今更だぜぇ、

 私は、私にできることを頑張ろう。



*******************



 ワインをちびり、と飲んで味のよさに私は頬を緩める。日本じゃこんないいワイン飲めなかったからなんだか感動。それ以前に前の『私』じゃほとんどお酒飲めなかったしね。今じゃ自由に飲めるし、イタリアは年齢制限が低いからいいわ。おいしいし。

《酔うなよぉ》
「余計なお世話」

 注意してきた兄さんに、私は言い返してもう一口飲む。葡萄の味がいいわね、結構いい素材使ってるみたいだし。
 ちびちび、と自分のペースでグラスを傾けて私はようやく一杯を開ける。酔いやすいわけでもないけれど、自分の量をまだ把握していないからこれ以上は飲まないでおこうと決めて私はテーブルの間を縫うように歩く。短い髪を風に揺らして私は、その感覚に瞳を細めながらも乱れぬように髪をおさえた。

「兄さん」
《あ゛ぁ゛?》
「私、ここで会える気がする」

 私の言葉に、内側の兄さんが反応してマジかぁ? と問いかけてくる。それに肯定を帰して私はくすり、と笑う。何故そう思ったかは分からないけど、なんとなくそんな気がした。
 どんな風に私達は出会うのか。私の存在ですでに狂いまくった予定運命だけれど、少しくらいは私の頑張りで調律されていると思いたい。なんとなくヴァリアーには入れたわけだし、大丈夫だとは思うんだけどね。
 考えることはたくさんで、だけど私にできることは少なくて。

(どこにいるのかしら?)

 心の中で呟いて、私は歩き続けた。



 XANXUSは、パーティを高台から見下ろして大体の面子を確認していた。格下ファミリーの幹部の姿がやはり多く、すぐにつまらなさを覚えてXANXUSは鼻を鳴らす。つい先日までの自分ならば、ただ見下すだけであれたのに。

(どいつもこいつも……)

 憤怒を持て余してXANXUSは舌打ちをした。誰も悪くはなく、誰もが悪い。自分の状況はそういうものだと理性が理解しているが故に、余計に腹立たしい。
 どうして自分だけがこんなに苦しまなくてはならないのか、と思う。あいつが自分をこんな立場に置いたりしなければここまで自分は苦しまなかっただろうに、と。どうして何も明かさずにこの位置に自分を据えたのか。どうしていくつも年を重ねても何も言ってくれなかったのか。結局、今までくれたものはすべて虚構だったのか。

「ちっ……」

 とめどない思考を舌打ちで止めてXANXUSはもう一度パーティ会場を見下ろし。陽光を弾き煌く、目立つ色合いの髪があることに気付いた。

(女?)

 表の世界より男尊女卑の酷いこの世界で、女がこんな場所に出席していることに驚いたXANXUSはその銀色を目線だけで追う。そんなXANXUSの様子に気付いた部下であるレヴィ・ア・タンが新人ですね、と呟いた。
 視線のみで、新人だと? とXANXUSが問いかけて。レヴィは頷き彼女の経歴を説明した。テュールに勝利し輝かしきデビューを果たした剣士、・スクアーロ。その説明にXANXUSは鼻を鳴らしてまたその銀色を追いかける。
 ああ、同類だ。
 直感して、XANXUSは同情と憐憫と、そして好意の眼差しを銀の彼女に向ける。ヴァリアーという闇に輝かきデビュー? 皮肉にも程がある。彼女だって、この運命の舞台で踊らされる操り人形マリオネットの1体に違いなく、そして何よりも虚しいのはそれを自覚しているということだ。
 あれは、そういう顔だ。あれは、そういう歩き方だ。だから、XANXUSは興味を持った。

「あれと会う。邪魔をするな」
「は」

 XANXUSの言葉にレヴィは従順に頷いて、見送る。ただ、その瞳には少しの不安もあった。レヴィはヴァリアーの一員として知っている。鯱の名を冠し冠された彼女の綺麗さと獰猛さを。

「ボス……」

 彼女は、XANXUSにどんな対応をするのか。それが気になって、仕方なかった。



 首筋に悪寒を感じて、私は立ち止まる。兄さんも同じものを感じていたらしくて問いの言葉はない。武器を持っていない状況のそれに私は動揺しながらも、それを出さずに後ろを見て。時間が止まったような、錯覚をした。
 黒い短髪、紅玉ルビーのような紅い瞳。服の要所には金糸銀糸の飾りがされてあり、胸元にあるボンゴレの紋章も見るとかなりのものなのが見てとれた。
 だけど、私が驚いたのはそんなことじゃなくて。

(あれが)

 XANXUSなのか、と。その想いだけが私のすべてを今この瞬間に支配してしまった。なんておぞましい怒り。なんて激しい憤怒。なんて、なんて――哀しい、瞳。
 憤怒に恐怖して、哀しさに私は切なくなる。矛盾した感情の嵐の中に私は放り出されて、どうしようもなくなった。動けない。何も、できない。体のコントロールを、失ってしまった。
 XANXUSと私は視線が合い、にやり、とXANXUSは私を見て笑う。見つけた、と唇が動いたのを見て、私の中にいぶかしさが湧き上がりそれによってようやく激情から私は解放された。それでも、恐ろしさと切なさは胸にあるけれど。

「てめぇが、・スクアーロか」
「そう、だけど……」
「オレはXANXUSだ」

 名乗られて、私は知っていたはずの名前を口の中で転がす。ざんざす、ザンザス、XANXUS。予定されていた運命の通り道でしかなかった彼は、この瞬間より何かが変わった。それを感じずには、いられなかった。

「ヴァリアーに入ったらしいな」
「誘われた、ものだから」

 半分は正しく半分は嘘の言葉。誘われるのを私は待っていたのだから、それを理由とするのは少し嘘になってしまう。けれど普通の視点から見れば私は勧誘されて入った剣士なのだしこれでいいのだろう。

「テュールのジジィを倒したってのは本当か?」
「ええ……強かったわ」

 油断も何もしてなかったのに、このザマよ。と私は左手を見せる。ふん、と彼はそんな私に鼻を鳴らしてにやり、と人の悪そうな笑みを浮かべた。

「弱かったからだろーが」

 それを言われてしまうと反論できない。私はそうね、と苦笑しながら返し。自分がこの人との会話を楽しんでいることを同時に自覚した。
 頭の賢い彼との会話は、楽しい。無駄をすべて省いた会話というものは私達以外には通じないものだけれど、だからこそ私と彼にとっては楽しいものでもあった。誰とでもこんな会話ができたらいいのに、とそんなことを私は思う。

「女でそれだけ戦えりゃ充分だろーがな」

 性別の差でバカにされたことが分かって私は少し不機嫌になる。だけど、どうしてだろう。イヤミで言われた気がしない。まるで、計算されたような私の嫌な部分をピンポイントでついてくるこの言葉に、私は違和感を感じていた。

「上官には色仕掛けでも使ったのか? 女の武器だろ?」

 そういうXANXUSに、私はカッ、となったものの残っていた数少ない理性でなんとか怒鳴りつけるのだけは抑えて。それでも私より背の高い彼を睨みつけて言い放った。

「ふざけないで」

 女だとか男だとか、そういう話が私は一番大嫌い。努力も何もかも、たったそれだけの問題で踏みにじられるだなんてどう考えたっておかしい。なのに世の男はそれを当然だと言う。私はそれが、許せないから。

「私は私の実力でここまでやってきた。私は、自分の力でここまで昇ってきた」

 楽な道ではなかったけれど、後悔しないと決めて進んだ道はちゃんと私の中に息づいている。いくつもの哀しみだって全部受け止めて歩いていく。私は、とうの昔に選んだから。『スクアーロ』として、生きると。

《もっと言ってやれぇ!!!》
(兄さんはうるさい)

 兄さんの怒鳴り声を私は内心の一言で黙らせてXANXUSを睨みつける。紅が私を見下ろして、雰囲気に呑まれぬよう私も彼を見上げて。唐突に、空気は緩んだ。

「ぶはっ!!」

 突然XANXUSは笑って、私は目を呆気に取られて瞬き兄さんも拍子抜けした、という声をあげる。ちょっと、ここって笑うところ?

「おもしれぇ……なら、見せてもらおうか。お前の実力」

 ぞくり、と私の背筋に何かが走る。快楽にも似た興奮が私の全身を走り抜けたのだ、ということを自覚するのに少しの時間が必要だった。それくらいに、深い意味を持つ言葉だった。
ああ、この、人は。

「オレと一緒に来い、・スクアーロ」

 ボスの座を捨てて、自分の下につけ。そう彼は言った。それこそが、私の待ち望んでいた言葉だった。この人に出会う、理由だった。

「私、なんかで?」
「オレの決定だ。文句あるか」

 傲慢な問いかけ。だけど、この人が言うからそう聞こえない。
 生まれながらの王者だと私は思った。誰かを従わせて生きていく人、誰かの下につくことが似合わない人。誰かの上に立ち、ついて来い、と言い捨てて歩くことが当然の人。

「ない、わね」

 小さく私は言って、XANXUSを見上げる。ああ……この人となら、悪くはない。私は心の中で呟いて、口に笑みを浮かべて見せた。

「私のすべてを、あなたに預ける。だから、」

 XANXUSに私は言う。この人についていくことが最初から決まっていたことだとしても、この人はちゃんと私にとって納得のいく人だった。だから、私はついて行く。決まっていたことなんかじゃない。ちゃんと、私の意志で選んだことだ。

「私にも、あなたの見る景色を見せて」

 これが、私とXANXUSの始まりだった。



















あとがき
ぐあぁ、12時過ぎちゃったぁ……は、拍手返信は明日にさせてください。ああダメだぁ、溜まってるぅ……orz
禊さん、私信待ってください。レイさんにも私信やりますんで少々お待ちを。明日さっさと帰ってさっさとアップしますので。ブログに。バトンとかもやります。なんかいっぱい溜まってる……(泣)
時雨はこれで新章スタートです。ここからヴァリアー。XANXUS様がカッコいい。あーたはどうしてそんなに男前なんだ……ヒロイン、さっさとくっついてねお願いだから。あなたくっつかないと私が大変……どうせ鈍いけど。この子も。
ではまた次の更新でー。

09/04/28
加筆修正:09/05/04