パーティは夜遅くまで続いて。私は疲れ果てて、自室で眠った。

誘いの言葉

 ディーノも騒いで、私もまあまあ騒いで。2人でずっと笑い合って。幸せに思う存分に浸って私達は明日に備えて寝ることにした。私もディーノも、明日の授業の単位が1つヤバイのよね。
 夢に落ちた感覚があったのに、目を私は開ける。暗い場所に私は立っていて、ここどこかしら、と内心だけで呟きながら私は上半身を起こした。床がないのにあるみたいで、やっぱりない。空中に浮いてるような状態の私だけど、足を下ろせば床の感覚。

(どこ? ここ)

 夢の中なんでしょうけど、とぼやいて私は起き上がった。夢って本当になんでもアリなのね。それでこんな空間に放り出されるのはちょっと嫌だけど。
 アテもないけれど、じっとしているのもなんだから私はのんびりと歩いた。途中に壁があって、その壁に手をつきながら私は歩く。どこまでも続く壁と暗闇に嫌気が差してきた頃、私は確かにその声を聞いた。

「う゛お゛ぉい」

 あまりにも聞き覚えのありすぎるそのフレーズ。私は弾かれたように顔をあげて、銀の短髪の『彼』を見た。

「ようやく逢えたなぁ」

 にやり、と笑った『彼』。だけれど私の頭は理解を超えるこの状況にオーバーヒートを起こして。きゃぁっ!! と叫んだ自覚はあった。そんな自分の声に私は起こされて、気がついたら朝だった。

「……」

 しばらく無言で状況を整理。『彼』が、いた。私の夢の中に。でも、何か違う。夢の産物とは思えないあのリアルさって……一体なんなの?

「わけ、分かんない」

 呟いて、時間を確認する。少し起きるには早い時間だったけれど、私は溜め息を吐き出して起きて服をクローゼットから取り出すためにベッドを出た。



******************



「おはよう、ディーノ」
「ふわぁ……おはよう、

 ディーノは相変わらず眠そうに、ぽやぽやとした目であたしに笑いかけてくれる。キャバッローネを継いだ証の刺青はあっても、そんなに性格に影響したりはしないのね。まあ、ディーノの能力は『ファミリーを守る』ための力だからファミリー認定されてる人いないと発揮されないものだし。

「今日の授業なんだったか覚えてる?」
「数学と……科学なかったか? 爆発系だとか担任言ってた気が」
「ああ、爆薬の扱いだとか宣言してたわね。そういえば」

 普通の学校で教えることから少しずれたこの学校。数学があるのはマフィアになった時一番多いのがデスクワークで計算が必須だから。語系があるのは多ヶ国の言葉が使えて当然だからで、理科があるのは薬の使い方を覚えるため。単位で進級していくけれど、その単位だって結構甘い。だから私もディーノもよくサボるんだし。
 そんな中で、今日の授業は『爆薬』らしい。前が蛇毒の使い方だったかしらね。マムシとコブラの危険性だとか説明された時はこんなのが学校でいいのかしら、って悩みたくなったけど。

「眠い……」
「昨日騒ぎすぎたものね。授業で寝たら? ノートは私が写しておくから」
「ん」

 目をこすりながら言うディーノは、私の言葉に素直に頷く。本当に眠いのね……このディーノをかわいい、って思った私ってちょっと重症かも、などと考えて自分に苦笑した。でもね、かわいいのよ。今のディーノの表情。

「理科までには目を覚ましてね」
「……おー」

 大丈夫かしら、って心配になった。まあ、いざって時は辛いものでも食べさせればいいわよね。でもイタリア人って濃い味だから辛すぎるくらいのを突っ込んだ方がいいのかしら。私が悩んでいると、ー、怖いこと考えるなよー、とディーノが隣で眠そうな声を出した。

「どうして?」
「なんか、嫌な予感した」

 あら、いい勘。
 辛いもの食べさせるのはかわいそうだからやめておきましょう、と決めて私は教科書を持ち机に座った。最初は歴史……か。またマフィアのボスの素晴らしき歴史の数々、とかいうのなら私寝たいんだけど。ああでもディーノのためにノートを写すから寝られないわね。ぼーっとしておきましょうか。
 そうね、起こす時は氷でも口に放り込めばいいかしら。
 いい考え、と私は1人機嫌をよくしてシャーペンを指で回す。隣の席のディーノは早速居眠りをはじめていて、ノート写してまた勉強教えないと、と私は内心だけで呟いた。ちょっとしたコツとかも書いてあげた方がいいかしらね。
 入ってきた先生は、私の隣のディーノに1つ嘆息してから無視して授業を始めた。



 昼の時になると少しは目が覚めたらしくて、ちょっと元気になっていた。ぱくぱく、とテンポよくパンを食べる姿は愛嬌がある。男なのにね。

、食べないのか?」
「え? ああ……ちょっと、おなか空いてなくて」

 私の返答に、大丈夫か? と心配そうな顔をするディーノ。大丈夫、と笑って、私は手の中の弁当を見下ろした。
 食欲がない原因は、私が一番分かってる。『彼』を見てしまった……それが、私の食欲を奪う悩み。別にそんなに気にしないでいいことなのかもしれないけれど、もし『彼』が本当にいるのなら。

(私、は)

 この、真如いつわりの役を返さなくてはいけないのかもしれない。本来、この舞台ステージに立つはずだった……彼に。だけれど、それは……とても……

!!」

 大声で呼ばれて私は我に返る。心配そうな顔のディーノが私を覗きこんでいて、私の焦点が彼に合うとほっと安堵の息を吐き出した。

「よかった……名前呼んでも反応しないから」
「考え事、してたみたい」

 この人を、悲しませてしまうのだろうか。そう思うと、少し嫌だった。
 仕方ない。今更な悩み。そう、割り切ることはできても感情を納得させることはできなくて。この場所で得た『丈夫な体』を私はこんなにも手放したくない。

「なあ、

 ディーノの瞳に映る私を、私は見て。なんて情けない顔をしているんだろう、と思った。迷子になって、途方に暮れた子供の顔。

「悩みがあるなら、言ってくれよ? オレだって、力になるから」

 その言葉が嬉しくて。私は瞳を細めて笑った。

「ありがとう、ディーノ」

 そう。『彼』はあの時死産になり、誰かに喚ばれた『私』が生き残った。今ある事実は、それで充分。『彼』がいようがいまいが、私がここで生きていることに代わりはない。今は、そう、信じて。

(まだ、私は――)

 私の空となる人に、出会う日まで私は止まれやしないから。



*******************



 夜、昨日と同じように疲れ果てて私は眠り。そして同じ夢を見た。

「昨日は逃げ出しやがったな」

 低い声に私は目を開けて、正面に立つ『彼』を見る。私と同じ年頃、同じくらいの長さの銀の髪、同じ色の瞳だけれど目つきは向こうの方が悪い。
 スペルビ・スクアーロ……私の兄にして、本来この場所に立つはずだった存在。

「だってびっくりしちゃったんだもの」

 驚くしかできなかった。『彼』がどんな存在かを知っているからこそ、私は自分の根底を揺らがされた。消えてしまうんじゃないか、と、怯えてしまうくらいに私は驚いた。

「ねえ、私を……追い出す?」

 私の問いかけに、あ゛ぁ゛? と『彼』は眉根を寄せて、納得したらしく、あ゛ー……、と唸ってからしばらく俯いて答を纏めて私を見た。

「追い出しやしねぇ。もう、その場所はお前の場所だぁ」

 そんなことは、ない。きっと『彼』がやろうと思えば、私の存在は一瞬にして消え去ってしまう。それくらいに脆い場所に私は立っているんだって、分かっているから……だから、『彼』の優しさが嬉しかった。

「まあ、オレもなんでかお前の『中』にいるみてぇだしなぁ」

 そう『彼』は言って、簡単な説明をしてくれた。
 死産の際にどうも『彼』の魂も私の中に入ってしまったらしく、だけど死産の影響は大きくて今まで目は覚めなかった。ようやく昨日目が覚めてもう1人の自分と話そうと私を呼んだのに逃げられた、ということらしい。だって、ねぇ……目の前にこんな人が現れたら誰でも逃げるわよ。

「1つの体に2つの魂、ってこと?」
「らしいぞぉ」

 返答はどこかおざなり。なんだか、『彼』にとってはこういうことはどうでもいいみたいね。ただ私と話したかった、ってだけみたい。でも、私はそれで満足したくない。

「ねえ、『兄さん』」

 私は私なりの方法で、この人を受け入れよう。たとえいつか私はこの人に殺されてしまうのだとしても、それはこの人の持つ当然の権利。だけど、この人が私を殺さないなら私と『彼』はこれからずっと運命共同体になる。それなら、拒絶する方が損ばっかりよね。

「この壁、壊しちゃっていいんじゃない?」

 私達の間にある見えない壁を私は叩く。兄さん、と呼ばれたことが驚きだったらしくしばし目を瞠っていたけれど私の言葉をゆっくりと理解し、にや、と悪戯を思いついた子供のような笑顔を彼は見せた。

「う゛お゛ぉい、本気かぁ?」
「もちろん。壊しちゃえば、大体こういう時は体を共有できたりするものでしょう?」

 私の言葉に、まぁな、と兄さんは笑う。
 スペルビ・スクアーロは私の兄であり、・スクアーロは彼の妹。ただいろいろと面倒で2人で1つの体を使ってるっていうだけの話。そう、考えてしまいましょう。

「行くぜぇ!!」
「剣、完成はしてないんだけど」

 私と兄さんが、それぞれ利き腕の左に剣を持つ。夢の中だけあって、望めば剣は出てきた。便利ね。
 朝まで、私達は壁を壊そうと躍起になっていた。だけれど、結局壁は壊れずに朝を私は迎えることになった。



*******************



 残念だったわ、と小さく呟いて私は空を屋上から仰ぐ。ディーノは家庭教師さんに拉致されちゃったらしくて、私は独りで昼休みを過ごしていた。
 もう少しで壊せたのに。あの壁、今夜は絶対に壊さないと。
 牛乳をストローで飲み干して、小さくして私は袋につめる。授業がもっと早く終わればいいのに、なんて考えながら教室への道すがらのゴミ箱に昼のゴミを投げ込んで。いい天気に引かれて教室ももったいないわね、と私は中庭に出た。

「ああ、いい天気」

 風に目を細めて木陰でのんびりしていると、頭上に1つの気配が出てきた。
 一体何かしらね、と思いながら寝たフリを続ける。何があるか分からないから、今はこうやって警戒体制。誰かしら、と首を傾げて私は頭上の気配の接触を待った。

「あなたが、・スクアーロですね」

 気配が目の前に降りてきて。私はそれに目を開けて、木に背を預けたままに気配の持ち主を見た。黒い隊服であるコートを見て、私は胸の中に言葉にしようもない思いが溢れるのを感じた。赤を基調としたその紋章、彼個人の趣味か、左腕の肩あたりにあるボンゴレの紋章。それに私は、ああ、という感嘆の息を漏らさずにはいれなかった。

「ヴァリアー……」
「ご名答。流石、様です」

 私の言葉に、満足そうな顔をする男。『様』だなんていう、久々の敬称に少し私は驚きながらも立ちあがり土を払って男を見た。
 ヴァリアー。私の、運命となる暗殺部隊……ようやく、ようやく。

「どういう、用件?」
「言葉を、お届けにまいりました」

 右手が、私に差し出される。

「ヴァリアーへ入隊しませんか? ・スクアーロ様」

 その言葉に、私は一度目を閉じて心を落ち着けて。そして、男に向けてにっこりと笑いその手を取りながら言った。もう、戻れない。私は選んだ道を、また1歩進む。

「喜んで。ただ、1つ交換条件を」
「交換、条件?」

 私の言葉は意外だったらしく、男は眉根を寄せて私の言葉を反芻する。ええ、と私は笑って、『彼』の道をまた辿る。この道が本当に正しいのか、なんて私には分からないし分かろうとも思わない。ただ、私は私が最善だと思う道を行く。それだけの話。

「剣帝」

 今のヴァリアーのボスにして、剣の道を極めた者。剣の帝王、と、呼ばれ讃えられる1人の男。『兄』たる『彼』が打ち負かし、『妹』たる私が辿る道の道標の1つ。

「テュールとの戦いを、希望するわ」

 その結果、スペルビ・スクアーロは勝ったのだ。そしてヴァリアーの隊長となる未来を獲得し、XANXUSという男に出会いすべてを捧げた。なら、私はどうなんだろう。それは私にも分からない。だけど、この道を歩くことに、ちゃんと意味はあるはずだから。

「な……?」

 男は目を瞠り、風が私達の間を吹いていく。

「もう一度言うわ。
 私、・スクアーロは、剣帝テュールとの戦いを希望する」

 この時。何故か、思い浮かんだのはディーノの顔だった。
















あとがき
はい、あと1話で第一部は終わります。いろいろとどんでん返しの話になってたら嬉しいです。そしてようやく鮫の登場。あなたの登場を私は待っていた!! 一応入れ替わり、だとは思います。ええ。でもスクアーロは出てくるのです。だって私が好きだから。
まあ彼のことはちょっとずつ明かしていくので少々お待ちを。あ、テュールとの戦いは書きませんのであしからず。人外同士の話書こうとするほど私は無謀じゃありません。なので戦闘終了後から第一部の最後はスタートします。
では拍手返信です!!

0:42「18188を〜」の方
おめでとうございます!! 凄いキャラ数字ですね。私もそんなのを踏んでみたい……(未だキリ番経験なし)大きい雲雀さんと小さい雲雀さんですか。いいなー……。
で、すっごく失礼で本当にすみませんなんですが。どなたでしょうか。お名前なかったんですが(失礼にも程があった)


リンクスさん
時雨への感想ありがとうございます!!! 今回はこんな感じに仕上がりました。ひたすらオリジナルを突っ走っていく予定です。ちょっとだけ小説沿いになったりもしますが……ほとんど捏造で。
こういう設定が好きだと言っていただけて嬉しかったです!! 二重人格、というよりはなんだか1つの体を共有してる兄妹、って感じなんです。後々いろんな設定が出てきたりしますが、趣味丸出しなので白い目で見ないで欲しいなー、とかほざいておきます。はい。
素晴らしいだなんて……ありがとうございます!! この感想を励みにこれからも頑張らせていただきます!!


更江 翼さん
大丈夫だといいんですけどねー……(自信はない)  高校生で社会人になって使うような資格取るのは間違ってるとしみじみ思いました。これからはやめます。
いや、あの、キリ番全然リクエストしていただいていいですよ! ですがそう言っていただけて嬉しかったです!! ありがとうございます。今回はお言葉に甘えて休み休み更新させていただきます。じ、実は溜まりすぎていろいろと叫んでます。学校で。「どーしよー!!」と叫んでWに宥められましたorz
大空ヒロインはああいう子ですから、クロードみたいな歯止め役が必要なんですね。頑張りすぎてるところだとかもゆっくりと矯正されていく予定です。なんだかんだ言って、ほとんど出番ないですがクロードも強いですからね。ちゃんと甘えてくれればいいんですけども……勝手に動くからなぁ。あ、その悲惨な目にあった一例が守護者会議だったりします(笑)
時雨は難しいんじゃなくて、何故か眠い時に書くことが多いんですよ……(何故)  確かに、人気あるんですよね。この連載……まだ3話なのに。どうしてだろ
参加していただけるなんてこちらこそありがとうございます!!! 15禁な話題は多分ありませんけども。やろうにもどこからどこまで15禁なのかちょっと私も分かりませんので(いい笑顔)(だけど問題発言)  時たまチャット開く理由がまさしくそれです。リアルタイムでいろんな方との話ができる、っていうのが私も大好きです。
多分すっごく変なテンションだと思いますので……! よ、よろしくお願いいたします!!


あるお方がチャットに参加してくださると聞いて狂喜乱舞しております。憧れのサイト様の管理人なのですっごく嬉しい……! 短編の完成度の高さに私は驚いております。え、なんでSSであんなの書けるんですか? もう絶対あんなの私書けませんよ(以前のフリリクがいい例)
そういえば題名変わったのです。何故かって? 理由は簡単なのです。「doccia」の意味、「シャワー」だった……つまりこの題名、時雨というのは秋のシャワー!? カッコ悪っ!! というわけで再度時雨を調べなおしてこうなりました。言葉の意味は分かりません。調べてもなかった……(泣)
あとがきが毎度のごとく長くなりましたね!!
では、次の更新で!

09/04/22