涙を流しだしたに、顔には出さぬもののXANXUSは内心で当惑する。何か言っただろうか。いや何も言ってないはず。そんなことを考えながら、静かに泣くの頭を撫で続けた。
彼女の心、彼の想い
ようやく涙が収まって、私は熱い瞼をおさえる。顔には出てないけれど、XANXUSはきっとオロオロしているでしょうから私は気にして欲しくないと思い、話題を違う方に変えた。
「誘拐されて、ごめんなさい……」
「……あれはてめぇのせいじゃねぇだろ」
どこか呆れたような口調。でも、と言い募ろうとした私の口にお寿司が突っ込まれた。……どうして、お寿司? と思いながらもおいしいから咀嚼する。結構、いい所から買ったのね。これ。
「
「……わざわざ文化まで学ばなくても」
荒らしにいくだけでしょうに、と言えばうっせぇ、という拗ねた言葉。……つまりそれ、食べたかっただけなんでしょう? お寿司に興味があったから今度の出征理由にして買っただけなのよね?
そろそろ不利になってきた、と思ったのかXANXUSは最後にもう一度私の頭を撫でて立ち上がった。
「しばらくは安静にしとけ、だとよ」
「しばらく、って……」
「今日中でいい。お前ならそれだけ休めば動けるだろ」
頷けばXANXUSは優しく笑って出て行った。
ベッドに身を沈めて、私はそっと天井を見つめる。寝ようかしら、と思った私だったけれどもう一度扉が開いて、騒がしい気配が入ってきた。
「う゛お゛ぉいっ! 起きたかぁ?」
「兄さん……」
「なんかお前の中から追い出されてな」
苦笑する兄さんに、きっとあの子と話していた時ね、と思いながら話すわ、という言葉を返す。顔色を見て目の常態を確認したりして兄さんはう゛む゛、と偉そうに頷いた。
「大分マシになったな」
「そんなに悪かったの?」
「真っ青だったぞ」
土気色をマジで見た、と言われて『私』の時はしょっちゅうだったのに、と思いながら兄さんがイスに座るのを待った。行儀悪く股を開いて座った兄さんの膝を叩いてから私は話す体勢に入る。
「『私』だった頃の、親友に会ったの。夢の中で」
「……それで追い出されたのか」
納得する兄さんにごめんなさいね、と謝る。思ってないだろ、と言われてすぐに私は頷いた。兄さんに嘘をつくのはやめておこう、って思ってるから。まあ、よく機嫌悪くなっちゃうんだけどね。全部そのまま話すから。
「何を言われたぁ?」
問われて、私は何を言おうかと悩む。全部言いたい。だけど、全部言いたくない。矛盾した気持ちの中少しだけ考えて、私はいくつかのセリフを選んだ。
「自分の命を卑下しないで、って」
「他には?」
「ここにいるから。生きていいから、って……」
兄さんはただ、聞いてくれる。声がどんどん掠れていくのを、どうやっても止められなかった。
「ずっと、親友だって……!!」
泣かずには、いられない。
こんな私の親友であってくれるあの子。『私』をいつでも支えてくれて、最期の瞬間まで看取ってくれて。あれほどずっと一緒だった他人なんて、あの子以外にはになってからもいない。
「よかったな、」
「うん……」
そっと頭を撫でられて、私は頷く。
すぐに交通事故で死んでしまった、とあの子は軽く言ったから私も流したけれど、本当は凄くショックだった。あの子も死んでしまったのか、と。今ではきっと、私と同じようにどこか違う場所で生きているんでしょう。それが分かっていても、寂しいこと。
「」
「……何?」
「1つオレも思い出してなぁ」
何を? と首を傾げればあのな、と兄さんは言葉を続けた。
「お前はオレの代役じゃねぇ。お前はちゃんと、『お前』として生まれてきた」
「え……?」
だって、私は。
「オレが願ったんだ。腹の中にいた時に、どうか妹だけは生きるように、ってなぁ……お前はオレの願いに応えさせられて、ただ『スクアーロ』の名を与えられただけだぁ」
それでもあなたを殺して、私はこの世界に命を与えられたのでしょう? なら結局、私じゃなくて兄さんが生きていればきっとその妹さんは。
「多分な、オレの本当の妹には魂がなかったんだろうなぁ……だから死産になりかけちまって、オレまで引きずられ掛けたぁ」
だからお前があいつの中に入ってくれてよかったんだぞ。
そう言われて、私は今まで自分の中にあった大きな負担が消えたのを感じた。
「それにな、お前はもうお前なんだ。お前がここに立つべき人間だから、オレが『裏』でお前が『表』なんだろぉがぁ。いい加減に気付きやがれぇ!」
最後は怒鳴られて、こつん、と軽く頭を小突かれて。ようやく私は、1つの確信を胸に抱いた。
「じゃあ、私は……」
ここにいて、いい? ・スクアーロとして、確固とした存在としてこの世界に在っても、許される? また溢れた涙に、私は涙腺を叱りたくなった。ああでも、本当に、悲しくても嬉しくても人は泣けるのね。あの子に親友と言われて、でいいと言われて、こんなに嬉しいことはない。死と消滅を覚悟して、その未来にもう、泣かないでいい。
「だからもっと自分を労わりやがれぇ。お前が死んだらオレも困るんだ」
それは体の問題じゃなく、兄としての言葉だと分かっていたからただ私は頷く。
「ねえ、兄さん」
「あ゛あ゛?」
「何故かしら、ね――」
こんな時、一番最初に報告したいと思うのはいつだってXANXUSなの。
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「ボスぅ」
「なんだ」
ルッスーリアに呼ばれてXANXUSは歩みを止めてオカマを睨みつけた。うふん、と腰をくねらせるマッチョオカマに嫌そうな顔をしながら、視線だけでさっさと言え、とプレッシャーをかける。つれないんだからぁ、と言うルッスーリアには背筋に悪寒を走らせた。
「ちゃん、目が覚めたみたいね」
満足そうなルッスーリア。の回復スピードが早い理由の1つであるルッスーリアは機嫌よくワタシがいてよかったわぁ、などと言っている。キモイ、と内心だけで思いながらさっさと本題、とさらにプレッシャーをかけた。
「ねえボス、そろそろ自分の気持ちに気付いたら?」
その言葉にXANXUSは眉根を寄せる。『自分の気持ち』なんて、いつだってXANXUSは自分に素直に生きているつもりだが。思って頭上に『?』を飛ばしながらルッスーリアを見つめる。
「いやぁん、そんなに見つめないでぇー」
「……消えろ」
キモかった。やっぱり最後はキモかった。
「でも、そろそろ気付くべきだよ」
「……マーモン」
ルッスーリアの肩に霧と共に出現したマーモンは、ルッスーリアに同意を求め、よねぇ、とルッスーリアも頷く。
「レヴィは嫌がるだろうけど……ボス、もう目を逸らしちゃダメ」
だから何がなんだ、と思いながらXANXUSはマーモンを見る。ルッスーリアで二の舞にはなりたくない。ただ見つめているだけでもギロになってしまう目つきの悪さのXANXUSだが慣れているマーモンは、1つ嘆息した。
「ねえボス、のこと、どう思ってる?」
そろそろ気付くべきだ。8年も彼女は待ち、もうすぐ命を賭ける戦いに身を投げる。彼女は兄がいるから多分どうにかしてくれるだろうが、XANXUSにこういうことを切り出せるのはマーモンとルッスーリアだけなのだ。
「どう……」
そういえば、どう思っているだろう。
隣にいるのが当然の策士? 自分の鯱? そのどれもが違う気がする。ただ、彼女の隣にいれば安心するし居場所なような気がするから隣に置いている。なら、この感情に名をつけるなら?
「…………」
「ああもう、焦れったいわねぇっ!!」
焦れたルッスーリアがだん、と足で床を鳴らしてサングラスの向こう側からXANXUSを睨みつける。ただならぬ
「ボス、アナタ、のことは好き? それとも嫌い!?」
ああそういう意味か、と。納得すると同時に、XANXUSの中で呆気なく答えは出た。
「で、だ」
ひとしきり泣いて落ち着いたにスクアーロは視線を落とす。
自分のことは盛大に見捨てても妹のことは見捨てないやつだととりあえずスクアーロは確信している。まだまだ純潔だとかなんだとかを渡す気にはなれないが、それでも相手としては充分満足いく人間だろう。
「お前、XANXUSのことどう思ってんだ」
「へ?」
どう、って……と口ごもってから、は幸せそうに笑った。
「私にとっての最高のボス」
「アホかぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!」
おもわず台をスクアーロはひっくり返した。幻のちゃぶ台返しを目の前で見せられて――ちゃぶ台じゃなかったが――は目を瞬いてから凄い、と呟く。スクアーロとしてはこっちのセリフだった。お前の鈍さの方がよっぽど凄い。っていうか頼むから気付け。
「オレがお前らのその鈍さのせいでどんだけ苦労したとぉ……!!」
無意識に口説くXANXUS、無意識にラブラブムードを醸し出す2人。無意識にXANXUSにべったりな。そして一番被害を被っているのは、中で全部を見せ付けられる誰でもない兄スクアーロ。
「兄さん……?」
「てめぇそろそろあいつを恋愛感情としてどう見てるのか考えろぉっ! それでも年頃の女かぁぁぁっ!!!」
世の女性は結婚も始める年齢。恋愛回数×回です、と親指グッジョブする時代。『はじめて』なんてとうの昔に(学生時代)なんて連中も大量にいるというのに、だけは昭和か大正時代を貫いていたりするのだから兄としては虚しい。とても虚しい。
恋愛もナニもお盛んなイタリア育ちとは思えぬくらいに、彼女は前世の教えを貫きまくってどこまでもピュアで潔癖だった。いっそもっとお盛んなギリシャやアレなナニが多いイギリスに生まれてくればよかったのに、とスクアーロとしてはかなり思う。
「恋愛、感情……?」
「そうだぁっ!!」
流石にツッコミに疲れて荒い息になったスクアーロ。肩で息する兄に視線は向いているが、どこか焦点が合っていない。少し心配になって観察していたスクアーロだったが、かぁっ、と頬を染めた妹にほっと安堵の息をついた。よかった、あれで実は恋愛感情ありませんでした、というオチだったら妹の天然タラシに今度は警鐘を鳴らさなくてはならなかった。
「私……」
「ま、今のうちにちゃんと言っとけ」
乱暴に頭を撫でて、スクアーロは笑う。
「お前なら大丈夫だぁ」
その自信はどこから、と恨みがましそうにスクアーロをは見上げる。やっぱり鈍いな、と思いながらスクアーロは自分で気づけぇ、と言っておいた。
「そういえばなぁ、」
「何?」
まだ顔を赤くしたままに、はスクアーロを見て首を傾げる。
「部下達がお前のこと、なんて呼んでるか知ってるかぁ?」
「え……?」
知らない、とが首を横に振れば、だろうな、とスクアーロは頷いてベッドに腰掛けた。イスはツッコむ時に蹴飛ばして遥か彼方にご臨終された。正確には壁にぶつかって壊れただけだが。
「時雨、だとよ」
「しぐ、れ……?」
「あ゛ぁ゛」
秋と冬。その季節の変わり目に振る雨量の少ない通り雨を、日本では『時雨』と呼ぶ。それは時に邪魔にもなるが、雨の少ない季節の恵みの雨でもある。さりげなく、そっと山を潤す空からの贈り物。
「お前が誰よりも頑張ってることなんてな、部下達にはお見通しだってこった」
裏で頑張り、それを表には決して見せない。XANXUSのためだけでなく全員のために尽くし、最後をちゃんと整えてくれる彼女を誰もがちゃんと知っていた。
「時雨の、とでも名乗るかぁ?」
くつくつと笑いながら言うスクアーロに、兄さんったら! とは恥ずかしさに真っ赤にした顔で怒鳴った。
あとがき
とりあえずナニのテンションの高さはただ楽しかっただけです。分からない方もいらっしゃると思いますので言っておきます。無視してください。特にS野さん、いろんな方に尋ねても構いませんがご学友の許可をもぎ取ってくださいね!← 私は上記すべての経験ありませんのでご安心ください(何をっ!?) W曰く私はヒロイン並に鈍いそうです。友人一同に「違うよね!?」と問えばそっと視線を逸らされる子です。みんな酷いっ!!
とりあえずこれだけ書きたかったです(をい)
09/07/05