の容態はどうだ」

 XANXUSの問いにルッスーリアは苦笑して、ひょい、と肩をすくめた。

「よっぽど疲れてたのねぇ。ぐっすり寝てるけど……大丈夫、後は休むだけよぉ」

 その言葉に安心したようにXANXUSはそうか、と呟いて昏々と眠るに視線を落とす。ようやく終わった誘拐事件は、全員にそれ相応の疲れも残していた。

夢の邂逅

 深い眠りの中で私はいろいろなことを考えた。最初は私と兄さんのことを考えていたはずなのに、いつの間にか1人に思考を占領されていることに気付いて私はその人の名前を呼ぶ。どうして、こんなにも胸が切ないのでしょう。

(XANXUS……)

 『X』を名に2つ持つ人、10代目となることに今はすべてを賭けている人、なれないことに絶望して拗ねてしまった人。運命に翻弄されながらも自分を見失わないでいようとする、強い人。

(どうして、私)

 こんなにも、あの人のことを考えてしまう? ずっと傍にいることなんてできないのに、どうして。

(兄さん)

 ぼんやりと、意識がどんどん沈んでいく。その闇の向こう側、確かに私は、1つの声を聞いた。

「――」
「え……?」

 昔、私が『私』だった頃にいつも聞いていたその声。そして『私』の、名前。あの日死んだ瞬間に失ったはずのものを聞いて私は意識を覚醒させる。どこが上でどこが下なのか、それすら分からない世界で私は立ち上がり呼び慣れていた1つの名前を呼んだ。

「――?」

 にこり、と彼女は笑う。

「久しぶり、――」

 少し茶色がかった黒い長髪に、色素の薄い薄茶の瞳。『私』の親友が、目の前に立っていた。



*******************



 実態ある幻覚で体を構成してもらっているスクアーロは、がしがしと長い銀髪を掻き乱した。

(面倒なことを思い出しちまったぜぇ)

 双子の眠っていた腹の中。女も男も死に掛けていた優しい優しい水の中。何が悪く、結局何が原因だったのかは分からない。ただ、死に近すぎる場所でスクアーロは願ったことを思い出した。

 ――こいつ、だけは――

 生かしてやってください。自分の命と引き換えでいいから、お願いだから片割れだけは。
 切実だった。真剣だった。すべてをくれてやってもいいから、と本気でスクアーロは願ったのだ。そして結果、魂が空っぽだった器に入ることで妹となった片割れはその命を永らえた。兄となったスクアーロの命と引き換えに、されど心は彼女の中に残って。

(オレの想いが、あいつを呼んだってわけかぁ)

 虚弱体質のせいで死神に狩られた、とは昔の自分を例えた。つまりは死神の手の中にあった魂が、スクアーロの叫びに応えて手の中から落ちて。そうして魂を失い死に逝くだけだった器の中に入ったのだろう。その際にスクアーロの生命力を使いなんとか一命を取り留めたせいで1つの器に2つの魂、という異常事態となってしまった、という感じでおそらくは正しい。
 すべてを思い出したスクアーロは、深く深く息を吐き出した。

「これで」

 ようやく、胸を張ってスクアーロは彼女に言える。

、お前は……)

 ちゃんと望まれて、この場所に生まれてきた。
 確信を持てたスクアーロは片手でそっと両目を隠す。いつだって自分の存在を疑い続けてきた愛しい愛しいたった1人の家族で妹。父親がXANXUSによって殺された後は天涯孤独の存在となった自分達。を道具扱いしてきた父親なぞに愛情はなかったが、互いのみというのはほんの少しスクアーロにとっても寂しかった。それも、妹はいつだって自分が代役だ、と笑うのだから余計に。
 ・スクアーロとスペルビ・スクアーロ。鯱のあの子と鮫の自分。ここにいていいのか分からない、と泣き笑う妹と自分がいることで彼女になんらかの負担を与えていないか気にし続ける兄。どこか擦れ違い続けた関係は、ようやく終わる。

(その前に……あいつだな)

 とりあえずXANXUSとの関係をどうにかしてもらいたい。
 思いながら考える度に頭の痛いスクアーロは痛む額をそっとおさえた。



「私が死んだ後、どうだった?」
「すっごい大変だったわよ? おばさんもおじさんも泣き暮らすし……私は私で遺産の整理だとか手伝ったし」

 ま。その後私も交通事故で死んじゃったけど。
 笑うことじゃないでしょうに、けらけらと笑う親友の姿に私はごめんなさい、と謝ってから苦笑する。この子のテンションがいつだって明るかったからこそ、この子は『私』の光だった。世界は暗くて未来はなくて。それでも希望を持って生きていけたのは、この子が私をいつだって照らしてくれたから。
 この子が親友で、本当によかった。本当にまた今更な実感をして、私は親友の姿を目に焼き付けた。

「ほら、まーたバカなこと考えてる」

 額を人差し指で小突かれて、私は衝撃に目を閉じる。『また』に、『バカなこと』……? そういえば、私はたまにこの子の言葉を理解できなかった。

「あんたはいっつも自分を否定しちゃうんだから……ねえ、分かってる?」

 ずっと昔、夢で見た言葉を思い出す。そういえばあの夢でも、この子は同じような言葉を私に問うていた。分かってないでしょ、と。それは『私』がいつも聞いていたこの子の口癖でもあったような気がする。

「私ね、あんたのために頑張るの好きだったんだよ?」

 華道も、茶道も。料理も洗濯も、いろいろと。入院している時にヒマだった私を元気付けてくれたもの、必要な世話に必要なもの。それらをこの子は自分で学んで、私のために生かしてくれた。それにいつだってすまない気持ちを抱いていたのは、私の、

「独り、善がりだった……?」
「そーゆーこと! 気にしないでよかったのよ。あんたはもっと、周りに頼ってよかったの」

 だからバカだって言ってんの。
 わしゃわしゃと頭を撫でられて、私は情けない気持ちをそっと抱きしめた。頼りすぎていて、できるだけ独りで頑張ろうと気を張っていた『私』だったけれど、もう少しだけ周囲を信じてみてもよかったのかもしれない。そうやっていつだって、今更すぎる後悔に身を焦がす。

「ねえ、」

 呼ばれて私は顔をあげた。優しく笑うその顔は、ずっと傍にいてくれたあの子のまま。

「今、幸せ?」

 意外なその言葉に、私は一瞬だけ目を瞠ってからすぐに笑った。そんな問い、答えはもう1つしかない。ディーノ、XANXUS、ベル、マーモン、レヴィ、ルッスーリア。それに、兄さん。いろんな人を愛しながら、いろんな人に愛されながら私は今を生きている。
 これが幸せでなくて、一体なんなんでしょう。

「ええ。凄い、幸せ」

 DV気味なXANXUSの愛情表現にちょっとアレなベルの行動。金優先のマーモンにXANXUSばっかり見てるレヴィ、そしてオカマで変態なルッスーリア。最後にうるさくたって優しい兄さん。賑やかで騒がしくて。それでも暖かいあそこが、私の居場所。
 あそこで笑っていられる今が、私はとても愛しく思う。

「よかった……あんたはすぐに、くだらないことで悩むから」

 くだらないって……あれでも、私なりにいっぱいいっぱいだったのに。
 少し拗ねた私に親友は声を出して笑ってから私に抱きついてきた。……これ、女じゃなかったら犯罪よ? 苦笑しながらも、長いその髪を私は撫でた。

「ねえ、自分の命を卑下しないでね」

 そっと囁かれた言葉に、私は動きを止める。

「あんたは、ここにいるんだから。あんたは、ちゃんとここで生きてるんだから」

 だから死ぬだとか言っちゃダメよ?
 少し体を離して私に笑顔を向けて言う。今まで・スクアーロとして生きてきたけれど、やっぱりこの子には敵わない。成績は私の方がよかったけれど、一度だってこの子に勝ったことがないことを私が一番知っている。

「ありがとう――」
「どーせ、私がいないからってネガティヴ思考入ってるんでしょ? あんたいつだってバカなんだから」

 こつん、と私の頭を小突いて。私はそっと微笑する。
 お互いの体が薄くなっていく。私もこの子も覚醒が近いんでしょう。私達は笑い合い、そっと最後に抱きしめあった。もうきっと、会えないから。

「じゃあね、――」
「うん……バイバイ」

 どこぞの南国植物風に言うなら、輪廻の果てで、とかかしら。
 私がそう言えばきゃらきゃらと笑って、えー、と抗議の声をあげる。

「今のあんたはスクアーロなんだから、『う゛お゛ぉいっ! 冥府で会おうぜぇっ!!』だとか言っちゃったら?」
「それ兄さんのセリフでしょ」

 嘆息すればまた笑って。そして私から1歩離れた。

「もう会えなくても、あんたはずっと私の親友だから」
「それは、私のセリフ」

 これが、私達の交わした最後の言葉。
 意識は薄れて、別の場所に私は覚醒するのを感じた。薄く目を開けると眩しさに目を細める。光溢れるその場所の中にいたのは、少し大きな影だった。

「起きたか?」

 優しい声に、私は泣きたくなる。一体どれだけの迷惑と心配を、この人にかけてしまったのか。

「ざん、ざす……」
「もう少し休め。まだ作戦までは時間がある」

 ああ、リング。
 呟いた私の髪をそっとXANXUSは梳いて気にするな、と言った。親友の言った通りに、甘えてしまっていいのか。そんなことを考えながら、私はXANXUSを見上げる。

(ああ――)

 何を今更なことを考えているのかしら、私。この人と一緒に生きたいだなんて、私が『スクアーロ』である限り無理な話なのに、どうして、本当に。

(にい、さん……私……)

 涙が溢れるのを、どうしてか私は止められなかった。



















あとがき
もう少し!! 拍手返信(フリリク)だけであとがき埋め尽くさせていただきます!!

妖華さん
 妖華さんでしたか! リクエスト承りました。そしてURL請求ありがとうございますm(__)m  時雨なので視点は山本でいこうかと思っております。ヒロインと一番仲がいいのは彼なので。
 もうすぐこれも完結いたします。頑張って書かせていただきますので!!

真美さん
 逆ハーはボンゴレも含みますか? ヴァリアーだけかボンゴレ入りか、ついでにミルフィはどうなのか。そこをちゃんと指定いただけるとありがたいです。私が普通に書いちゃうとヴァリアーだけになっちゃうのですが。
 リクエストありがとうございます! はりきって書かせていただきますので!!!


ナオさん
 未来編を本気で書いちゃうと長編になるので、未来のワンシーンでもいいでしょうか? とりあえず余裕あれば未来編は本気でやります(ぇ)
 どんなシーンがいいか、原作沿いのワンシーンかオリジナルかなどをちゃんと教えていただけると嬉しいです。リクエストは承りました! ありがとうございます!!!


あとちょっと!

09/07/05