目を開ければ、カビとホコリの臭いが強い倉庫の中だった。捕まってる、と思うと同時に月並み、という感想が胸をよぎった。でも、これは私のミスね。
(骨とかは、大丈夫……ね)
内臓にも傷はなさそう。記憶障害もないしどこかが麻痺した感覚もない。それをチェックしてから、私は深く息を吐き出して兄さん、と内側に呼びかけた。なんだぁ? という聞きなれた声が返ってくるのを疑ってはいなかったけれど、返答はない。
(兄さん……?)
返事は、ない。何度も呼びかけたけれど、結果は同じだった。兄の声がない。学生時代までは当然のことだったそれが、慣れきった私には酷く怖い。きっと何か特殊な術をかけられたのだろうけれど、本当に『独りぼっち』なのだということを実感して背筋が寒くなった。
(どうしよう)
倉庫の暗闇が、今は途方もなく怖かった。
2つの交錯
イライラと、XANXUSは机を叩いていた。その様子にレヴィが震えており、ルッスーリアが困った表情を浮かべる。ベルはソファで一見のんびりしているように見えるが、ずっとXANXUSの様子に気を配っていることが全員には丸分かりだった。マーモンは念写したものの効果がなかったので少し居心地が悪そうである。
「まだか」
「だからぁ、あの子は先に帰っちゃったからワタシ達は知らないのよぅ。ボス」
ルッスーリアの言葉にXANXUSは舌打ちした。
が、帰ってこない。それがXANXUSの苛立ちの原因であり、全員の居心地を悪くしている理由でもあった。XANXUSを出迎えたいから、と後始末を任せて帰った参謀はどうしてかその帰り道で行方不明となってしまっている。当然のように出迎えるものだと信じていたXANXUSはすぐに異変に気がついた。そしてマーモンに念写を頼んだものの、何かおかしな結界でも張られているらしくうまく行かない。
「どうしたんだよ、の奴」
ベルの言葉が、全員の心境を物語っていた。
帰ってこないなどありえない。なんらかに巻き込まれて、帰ってこれないのは間違いない。・スクアーロという人間をXANXUS達はよく知っており、同時に兄たるスペルビ・スクアーロのこともよく理解していた。だからこそ、それだけは断言できる。
「……僕がなんとか接触を取るよ」
「できるのか?」
「念写は無理でも、精神との接触ならできる思うよ」
とは無理でも、兄とならなんとかなる。今でこそ名前を変えているものの、マーモンも虹の一角だ。藍色の虹、サイキッカー。幻術を得意とし、異常能力を扱うアルコバレーノ。精神体たるスペルビとの接触すらできなければ、アルコバレーノに選ばれることなどありえない。
「行け」
「講座にAランクの金額、お願いね」
「……」
どこまでも、守銭奴は守銭奴だった。
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「こいつがヴァリアーの参謀か」
声に私は目を開ける。不安はずっとあるけれど、表に出すほど愚かじゃない。おそらくは私を捕まえた連中のトップであろうその男の目をじっと見据えて、男も私を見据え返した。
「名は」
何も喋らない。いくつか他にも問われたけれど、口を開くことすら私はしなかった。
喋る必要性を感じない。私の声は女のそれそのものだから余計に喋りたいと思わない。面倒なやつだ、と男は呟いてから膝をついて私と視線を合わせた。
「お前のボスの秘密を知っている」
「……!」
驚きはしたけれど、喋りはしない。XANXUSの秘密、と言われて思い浮かぶのはただ1つ。『あれ』だ。だけれど、オッタビオと9代目……それに私と兄さんしか知らないはず。いえ、オッタビオがどこかに漏らしたのならば話は別ね。あの準備だけは周到な彼のこと、もしかすれば情報を流して避難場所を作っていたのかもしれない。
「肝の据わった女だ……イラつくな」
呟いて男は立ち上がる。見下されているのを別に不快だとは思わない私はこの状況に対して何も思わなかったから余計に男は苛立ったらしい。目がす、と眇められておもむろに男は口を開いた。
「お前はXANXUSを呼び出すためのエサだ」
精々役立てよ。
そう言った男を、私は嘲笑った。ああ、なんて勘違いをこの人はしているのかしら。私と兄さんを切り離してしまった時点で、あなたのすべては破滅しているのに。
「なにがおかしい」
「あの人は来ないわよ」
言い切った私に、いぶかしげな顔を男はした。救助を私が待っているなんて、思ったのかしら。自分のミスだもの。死ぬ覚悟くらい捕まった瞬間にできた。死ぬ瞬間に独りぼっちなのを寂しくは思うけれど、兄さんが生き残るのだからそれで構いやしない。
本来の立ち位置を兄さんに返す。それだけの話なんだから。
「だって私は」
笑う。そして、宣言する。
私はただの代役で、ただのピンチヒッターで。それを私は、ずっとずっと知っている。なのに兄さんはこの場所を私に預けてくれていた。なんて優しい人なのだろう、といつも思いながら、私は生きてきたの。返すくらい、いつだって準備はできていた。
「ただの、『スクアーロ』の代役だもの」
舞台に立ち損ねた役者の代わり。そしてその役者は戻ってきているんだから、代役は返さなくちゃ。
私の言葉を理解できずに、男は私を何か異質なものを見るような目で見た。
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「スクアーロ」
幻の世界で、マーモンは呼びかける。骸の扱う幻想空間とは少し異なる、マーモンの空間。鯱の彼女が来ると少し期待していたのだが、出てきたのは兄の鮫だった。
「……」
雰囲気の剣呑さに、やはりただ事ではなかった、とマーモンは内心で確信する。
「何があったんだい?」
「が、囚われた」
意外すぎる内容にマーモンはフードの下から目を瞠った。あのが、と驚きながらもどこか納得もしている。念写ができない理由もそれで説明がつく。そしておそらくは、スクアーロも追い出されたのだろう。その『誘拐犯』達に。
「君が見た最後の状況は?」
「倉庫に囚われたところで、変な術をかけられたぞぉ」
そして会話ができなくなり、完全にあの暗闇の中でスクアーロは孤立した。
マーモンの呼び声がなければ今も脱出できていなかっただろう。スクアーロ、と呼ばれたからこそこの空間との内側とが繋がった。、と呼ばれていてもスペルビ、と呼ばれていてもアウトだった。
「うん……いくつか思い当たる術はあるよ。どこの倉庫だい?」
正確な位置を告げるスクアーロ。流石の兄、と言うべきか言動に反して頭は決してバカではない。内側でありながらも、すべてを把握してみせたその力量は『スクアーロ』の血を感じさせた。
「分かった。ボスに報告して、命令を貰う」
「待てぇ」
帰ろうとしたマーモンに、スクアーロから声がかかった。
「頼みがある」
たった1人の夜空にしか傅かぬ鮫。滅多に出てこないだけではなく出てくればう゛お゛いう゛お゛い、と文句の絶えない彼からの頼みは、一番頼まれることが多いマーモンですら数えられるほど。そのスクアーロから、こんなにも真剣な口調でこんなタイミングでそのセリフを吐かれれば、1つしか選択肢などなかった。
「……なんだい?」
そして告げられた望みは、マーモンにとってとても簡単なことだった。
マーモンからの報告に、レヴィは顔をしかめてルッスーリアは、まあ、という声を漏らしベルはあーあ、と呟いた。XANXUSの表情は険しいままだがそれはいつものことだから気にしないでおこう。少なくとも、位置が特定できただけでも彼は少し安堵したはずだ。
「どうするんだい? ボス」
マーモンの言葉に、はん、とXANXUSは笑った。
「決まってる」
――XANXUS――
あの声が傍にあってこそ、ヴァリアーだ。彼女が在ってこその、XANXUSの組織なのだ。参謀となれるのも、この場で策士に向いているのも、兄たる鮫でもそれ以外の3人でもない。・スクアーロ、ただ1人。
「を、取り戻す」
倉庫の中で、銀色の鯱はただ目を閉じる。
あとがき
というわけで更新です!!
前の出来栄えの悪さだとか今回の短さだとかは無視してください。どうせまた書き直す予定ですので(ぇ) 全部完結してどれか連載が一段落したらやります。書き直しだからのんびりペースですが、出来栄えはきっとよくなってる!! ついでに学生時代でやむを得ずカットした設定全部出したいな、なんて。
フリリクしてくださった方、お名前がないと受理できません。今までしてくださった方々も、お名前をお願いいたします。「名無し様」って書くの虚しいんです。私が
移転したりだとかいろいろごたごたしましたが、3日か4日に1回更新というペースを変更する予定はありませんしHN変わっても私は私です。PNのまま数年は頑張りたかったんですけどね……orz 冬日晴、って名前はPN兼HNなのでまた移転が続けばどこかで使う可能性はありです。……あ、投稿(をい)
では次の更新でー!!
09/06/15