XANXUS。その名の意味は、『X』を2つ兼ね備えていることにある。10のローマ数字と酷似しているそれをXANXUSは名として2つ持つ。故に、彼は10代目としての誇りと未来を捨てられない。たとえ、与えられているすべてが紛い物の翼でも、だ。
そしてその事実を知る者が、9代目を含めても片手で足りてしまうことが彼の不幸なのだろう。
裏切りの副隊長
闇の中で静かに私は目を閉じていた。寝ているように素人からは見えるのだろうけれど、周囲のみんなは私が寝ていないことを知っている。張り詰めさせた神経と隠しながら研ぎ澄ませている殺気。その2つに気付かないような役立たずは、今このボートに誰も乗っていない。
「そろそろだよ、」
「……ええ」
マーモンの言葉に私は目を開ける。断罪と破壊はXANXUSの仕事であって、私のやるべきことではない。私のやるべきことは、作戦隊長としてここでみんなに指示を出すこと。
私が目を開けて姿勢を正して周囲の状況を確認しようとした時、レヴィがぽつり、と呟いた。
「本当にオレ達だけでいいのか?」
場にそれぞれらしい笑いが溢れる。どれもがレヴィを嘲っているのだけは共通していて、何がおかしいのだ! とレヴィが怒って立ち上がる。内側の兄さんが、うるせぇ!! と大声で罵っていたのに、兄さんもうるさい、と返しながら私はレヴィを見上げる。
「見つかったらレヴィを囮にするわよ?」
「…………」
無言になっておとなしく座るレヴィ。おー、というベルからの歓声に私は笑いレヴィはベルを睨みつける。それでも暴れだそうとしないのは、ここで作戦が狂えばXANXUSの立てた計画のすべてがパァになることをちゃんとちゃんとみんなが分かっているから。まあ、詳細は私が状況次第で私が立てていくからちょっとくらい狂ってもなんとかする自信はあるけれど。
兄さんがうずうずとしているのが分かって、私は嘆息する。別に戦いたいわけじゃないし、私が剣士と戦うのが好きなだけだからその他は兄さんに任せてしまっても別に構わない。だけれど、作戦隊長としては随時の命令が必要。……手が空いたら肉体の主導権は渡してしまいましょう。戦うの面倒だ、とかじゃないから。多分。
「レヴィ、8年ぶりの
言い聞かせるようなマーモンの言葉にレヴィがす、と怒気を静める。8年ぶりの表舞台。8年ぶりの仕事。そう、ヴァリアーという部隊はあの日から8年という長い年月を私達は待ち続けた。あの人が帰るのを、ただひたすらに。そして彼が戻ってきた以上、待つ必要も裏舞台で頑張る必要性も私達は感じない。
「そう、だから私達がなんとしてでも成功させなくちゃならないの。
5人で1つの島を救った。それが、XANXUSの次の足がかりに間違いなくなる。だから、なんとしてでも5人でやり遂げましょう」
私が言えば、全員の気が引き締められる。それに私が笑ったその瞬間。耳に全員が取り付けていた小型無線機からXANXUSからの作戦開始の合図が入った。
全員の眼差しが変わる。当然のこと。だって、それがヴァリアーなのだから。
「さあ、始めましょう」
私はゆっくりと立ち上がり、言う。8年の間に延びた銀髪が夜風に揺れて月光を弾き煌くのを私は見る。年は変わったって、私がXANXUSだけに従うという気持ちに変化はこれっぽっちもない。あの人のためだけに私は戦う。あの人のためだけに、私は今ここにいる。
「幕開けよ」
ボートのエンジン音が、静かなの声と同時に静謐なる海の空気を切り裂くように響いた。
XANXUSとオッタビオ。お互いが信頼という仮面を被り、嘘の関係を築き上げてきた2人。私がその関係に気付いたのは『揺りかご』の時で、作戦にあえて参加しなかった彼のその本音をにXANXUSはあの時にはもう気付いていて私にそれとなくそれを教えてくれて、私は知った。
隊長と副隊長。理想の関係とまで言われたXANXUSとオッタビオは、ただの計算と偽善の間柄でそれ以上にはなれずそれ以上に成り下がることすらできなかった。そして目覚めたXANXUSは、裏切ったオッタビオを、憎んだ。
「マーモン、このまま?」
「うん。まっすぐ進んで、」
マーモンの言葉に私は頷く。マーモンの術による霧で隠されたボートは夜の海を駆け抜けていた。普通ならかなり危険なのだろうけれど、私達にとっては昼の運転をするのとさほど変わりはしない。マレ・ディアボラと名付けられている人工島までの距離を計算して私は1つ息を吐き出した。
うん、成功率は100%。
「なーんかさ」
そんな中で、ベルが口を開いた。
「嫌な予感しね?」
「するわよ」
ベルの言葉に私はあっさりと答える。しないわけがない。元々、裏切りと裏切りを重ねるような作戦を私達は実行しようとしているのだ。それを知っているのは私とマーモンだけといえども、やっぱりそういう雰囲気を感じ取るのがベルは上手い。
「マーモンの幻術だけじゃ完全性に欠けるわね……レヴィ、雷を落として一時的に暗視装置の麻痺を」
「うむ」
素直にレヴィは承諾してくれる。ボートは私の運転でまっすぐに走り、そしてレヴィが背のパラボラを抜き放ち雷雲を呼んだ。
「レヴィ・ボルタ!!」
白光が散り、電撃を数条落とす。同時に、私達の乗るボートが陸地に乱暴にのし上がった。
「誰だ!?」
気付いた2人の見張り。舌打ちしたい気分を隠しながら私は手でベルとルッスーリアに合図を出す。音もなく2人は動いた。悲鳴もなく2人の見張りは、ルッスーリアのムエタイとベルのナイフにより倒される。それにほっと安堵の息を漏らして、私はボートから降りる。
「ー。王子もの足りない」
「後でいっぱい殺せるわよ」
そう言い返して、私達は歩き出す。マーモンによる霧の幻術とレヴィの雷。2つの相乗効果により、私達に気付く者は誰1人としていなかった。暗殺者として、気付かれずに人を殺す技術は必須。それを使いながら、私達は人の目を避けて目的地に急ぐ。
「マーモン、残りの数と配置を」
「現場でのナマの情報は別料金だよ、いくらでもね」
「XANXUSにいくらタカってもいいわ。私にタカらなければ」
中の兄さんが、……、と寂しげな声を出してきた。だって、この面子の中にいたらたくましくなるしかないじゃない。私のお金が減るより、全部活動費で落としてくれるXANXUSにタカってくれた方がずっと楽でしょう?
マーモンが私の肩で念写し、特殊なトイレットペーパーに地図と人の配置が鼻水で描かれる。……耳元でやられるのがこんなに嫌だなんて思わなかったわ。顔をしかめてマーモンの反応を待っていれば、ム、という唸り声。
「聞いていたより人数がいるね」
「何人?」
「建物の外に8人、中には10人だね」
「……18人」
さて、どう倒そうかしら。18人くらいなら私達の力でなんとかなるけれど、配置が少し問題かしらね。
「逃がせない任務だものね」
私の呟きに、マーモンが肩で頷く。
「例のあれを持ち逃げでもされたら台無しだからね」
マーモンの言葉に私は頷きながら念写を見る。配置を頭に叩き込んで、その紙を雨の炎で燃やした。みんなにはこの炎の原理が『入れ代わり』のあの炎だと理解されているみたいだけれど、こっちは純粋な死ぬ気の炎。知識だけはあるからやってみたら灯せたのよね。燃やす時とかにしか今は使ってないけれど、『ヴァリアー編』と呼ばれてるあの事件が終わったら武器に灯す練習もしましょうか。
「ベルは私と兄さんについてきて。ルッスーリアとレヴィは外の見張りを片付けてくれる?」
「りょーぉかい」
「私に、お・ま・か・せ♪」
頷いてくれたのはベルとルッスーリア。だけれどレヴィは、自分が外に配置されたのが気に入らないらしくて私を睨んできた。彼の本質が嫉妬に近いのは本当にこういう時に面倒。私ははぁ、と溜め息をついて、またか、という風にベルが舌打ちをした。
「レヴィ、あなたの武器は?」
「む……雷、だが」
「雷って、室内で発生するものじゃないでしょう?」
だからあなたは外なの、と私が言えば不満そうではあるもののある程度は納得したらしい。最後のとどめとして、私はにっこり笑ってその言葉を言った。
「XANXUSが、あなたの働きに期待するって言ってたけれど」
きらり、とレヴィの目が輝いた。XANXUSが。そういう単語にレヴィが弱いのはこの8年で充分理解させてもらった。私が隊長代理をずっと務めていたんだから、みんなの使い方はXANXUS以外なら私が間違いなく一番分かっている。
それに……今回の作戦の裏をちゃんと知らされているのは、私と兄さんとマーモンだけだから彼に中の敵を任せるわけにはいかない。マジメすぎて、レヴィでは融通が利かないだけじゃなく暴走の可能性もあるから。
「行くわよ」
号令をかければ、全員が頷く。レヴィが拗ねてもルッスーリアならなんとかなだめてくれるでしょう。それを期待しての配置でベルなら何に気付いてもうるさく突っついてこないのを理解しているからこその配置でもある。マーモンはこの後の別行動があるし、私達4人でなんとかここはやらないとね。
(兄さんに代わろうかしら)
なんとなく、うまくいくということを私は感じて内心で呟く。
《ふざけるなぁ!!》
「分かってるわよ」
内側の兄さんの怒鳴られて私ははいはい、と言いながら耳をおさえる。だから、兄さんはうるさいってば。隣で大体のやり取りが分かっているのかベルが笑う。それを睨みつけながら、私達は建物の中に急いだ。
マレ・ディアボラ島迎賓館の誇る大ホール。100人近くのマフィア達を軟禁しているそこの様子を予定通りに私達は通気溝の中で伺う。完璧なプロとしての動き……だけれど、完璧というのは故にスキを生み出すのだということを理解していない動き。ただのプロね、と内心だけで私は呟きマーモンの合図を待つ。
「気付いてくれねぇなんてつまんね」
「うるさいわよ、ベル」
緊張感なく笑うベル。全部小声の会話だけれど、通気溝はかなり声が通る場所だから警戒しておいて損はない。マーモンはまだなのか、と中の兄さんが焦りだした瞬間。ホールの明かりが、消える。
「ベル」
「ししっ!」
私の合図に、機嫌よくベルが笑い手を動かす。同時に一番大きな扉が開いて、そちらに銃弾が撃ち込まれるのを音で確認してから私達は通気溝の中から飛び降り1人1人を各個撃破した。
明かりがついて、暗闇とのギャップに私は目を細める。
「中だからって暗視装置を省くなんてことするからね」
「思ってたよりあっけなくって王子不満」
「そうね、私もここまで弱いとは思わなかったわ」
ひょい、と私が肩をすくめればうししっ! とベルが笑う。こんな単純な作戦に引っかかるのもそうだけれど、中だからって暗視装置をつけないその手抜きにも腹が立つ。
作戦そのものはシンプルなもの。私とベルは通気溝に隠れて、マーモンが電気を一時的に消してその瞬間に一番目立つ大扉を開く。操作はベルのワイヤーで行い、銃撃が一方に向いていて気が緩む時を狙いそれぞれを暗闇で倒す。
本当に、私ならこんな作戦に引っかかったりはしないのに。
「お、おい……」
「何?」
人質の1人に呼びかけられて私は首を傾げる。女、という呟きに少し嫌な気分だったけれど抑えて言葉を待てば、お前達は一体、という面白みも何もないセリフ。月並みな男、私大嫌いなのよね。
「ボンゴレ独立暗殺部隊『ヴァリアー』。ボス、XANXUSの命令で私達幹部があなた達の救出に来ました」
「まさか、あのXANXUSが……」
「私達がここにいるのが証拠よ」
言い放てば、ヴァリアーの株をあげるような言葉がちらほらと交わされる。そう、これは私達の復活の儀式。名を売り上げて、もう一度あの人を望む高みまで押し上げるための。
ベルに人質を守るように、と指示してから、私は剣の具合を確かめて背を向けた。
「じゃあ、私は用事があるから行くわね」
「『例のあれ』ってやつ?」
やっぱり、気付いてた。
嘆息すれば、もうちょい警戒心もったら? というお言葉。まったくその通りだったから、そうするわ、と言い私は歩き出す。……ベルしかいないから頼んだけれど、『目ん玉くりぬきゲーム』だとかやってたらどうしようかしら。
銃弾の嵐の中を潜り抜けていくのは兄さん。こういう戦闘は私より兄さんの方が向いているから、すべての主導権を今は兄さんに渡している。
《次の角を右に》
「お゛う゛」
応える兄さん、指示する私。お互いの気持ちに焦りはあって、それを抑えつけているのはXANXUSからの『すべてを完璧にこなせ』という命令。『例のあれ』を奪い全員を斬り伏せる……難易度だけは本当、無駄に高いんだから嫌になっちゃうわ。
《待ってて、XANXUS》
すべてを完璧にこなしてみせましょう。あなたのために。あなたにすべてを託した、私達のために。
*******************
「なあ、オッタビオ。てめけはあいつらが軍人かぶれの人間だということを知っていた」
XANXUSに言われてオッタビオの額から冷や汗が流れる。
「ならどうしてオレに言わなかった。
てめぇは本当に昔から変わらねぇ。今も昔も、てめぇは嘘だけをオレに言ったな」
瞳にあるのは失望などではなく、静かな怒り。言い訳を募らせようとしたオッタビオを見据えるその瞳に、オッタビオはどんな言葉も紡げなくなった。
――オッタビオ、あなたはどこにも届かない男ね――
忌々しい鯱の言葉を思い出して、オッタビオは歯軋りしたくなる。ああ、その通りなのだろう。こんな人間達の中でやろうとした自分が、バカだったのかもしれない。
「てめぇは軍の下っ端と裏で取引をしてやがった。金と引きかえに、軍の武器を横流ししてやがった」
だがそれは軍の中で明るみに出てしまった。頼れるのはオッタビオだけとなった軍の下っ端連中はオッタビオに助けを求め、いつものようにオッタビオは切り捨てた。そうすれば、下っ端はオッタビオが主催するパーティを襲撃したのだ。金を手に入れて、オッタビオを破滅させようという計算。それをXANXUSが語れば、かっ、とオッタビオの目が見開かれた。
「何故、そこまで知っている!」
声は震えた。どうして、どうして。
「ずっと眠っていたあなたが、どうしてそこまでのことを!!」
その言葉に、XANXUSの瞳が獣のような残酷で残虐な瞳に変化する。そして、知っているだろ? ボンゴレ血統特有の力を、と言えば、ありえない、とオッタビオは呟いた。
「あなたに『超直感』は」
「オッタビオ!!!」
怒鳴りが、空気を震わせる。
くつり、とXANXUSは笑いその笑みにオッタビオが怯えを見せる。怒りと喜び。相反する2つの感情を混ぜ合わせたようなその笑顔に、す、とオッタビオの背に冷たいものが走り抜けた。
「ついに……認めやがったな」
理解できないオッタビオを無視して、XANXUSは大声で笑う。
「これではっきりした! やっと、あのクソ忌々しい8年前に1つケリをつけられる!!」
鯱の少女の言葉が、オッタビオの中で繰り返された。何度も何度も、彼女は警告していたのだということをようやっとオッタビオは悟る。9代目を養子故にXANXUSは誰よりも理解していた。それを知っているからこそオッタビオにも言い逃れられる場所は存在しない。
「…………」
オッタビオの眼鏡が、静かに光を反射した。
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「ようやく『あれ』を手に入れたわね」
私の手の中でゆれる1つの設計図。マーモンがそれに頷いて、私は最後の1人が逃げようと準備していたボートに乗った。
「行くのかい? 」
「ええ。XANXUSは私に言ったから」
後ろについて来い、と。私のいるべき場所はそこだ、と。
「みんなをお願いね、マーモン」
頷いたマーモンに私は笑いかけて、ボートのエンジンをつけて全速力で夜の海を行く。どうせ今頃、『ヴェッキオ・モスカ』をオッタビオは作動させたのでしょうから緊急停止のスイッチを押しに行かないと。
そう。とうの昔に断罪の鐘は鳴り響いていて、この事件は終わっていた。XANXUSが動いた、その瞬間から。
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モスカの完全なる設計図と裏切り者の始末。
それがXANXUSの立てた作戦であり、これを知っているのは私と兄さんとマーモンだけだった。オッタビオとその部下達の死体を見下ろしながら、私は内側の兄さんともども自分が疲れていることを自覚する。
「XANXUS、先にアジトに戻っていいかしら?」
「ああ」
頷いてくれたのを確認して、私は歩き出す。夜の街の空気に浸りながら、ほう、と息を吐き出して兄さんに呟いた。
「疲れた、わね」
《大丈夫かぁ?》
「あまり大丈夫じゃないかしら」
シュミレートで寝不足だったのが効いたみたいね。さっさと帰って寝てしまいましょう。決めて歩き出した私、のんびりと傍観を決め込んだ兄さん。お互いに油断していたのが、間違いなく悪かったのでしょうね。
「むぐ……!!?」
口と鼻を覆うように少し湿ったハンカチが当てられる。
《!!》
兄さんの叫びを遠い場所で聞いているような気がした。クロロホルム、有名すぎる、睡眠薬。それを確認することすら時間がかかった。闇の手が、私を捕まえて引きずり込む。暴れたものの、適量以上をしみこませているのか意識が遠のいていくスピードが速い。
(に、ぃ……さ……ざん、ざす……)
無意識に2つの名前を呼んで。私の意識は闇に沈んだ。
あとがき
あっはっはっは、ジェットコースター楽しい!!
というわけの時雨でした。これで最終章がようやくスタート。えへへへへ、楽しいなぁ。こっからいろいろとみんなを暴れさせるのです。小説沿いってキツイな、とか思った今日この頃。
フリリクしてくださった方、ありがとうございます!! お名前教えていただかないと書けないので、おそらく2人だと思うのですがいいでしょうか? 後、1つにリクを絞っていただけると助かります。せめて2つにしてくださいです。はい。
では次の更新でー!! 次はもうちょっとはやめに……あ、リクやります。
09/06/04