着慣れたコートを羽織って、専用のケースに剣を入れる。金属探知機の目をごまかしてくれる便利な素材でできているケースで、国外への仕事の際は必須の品。
伸びた髪を後ろに流して、その長さに少し笑う。
未来を知っているけれど、あなたの我が侭になら付き合ってあげるわ。でも、ちょっとくらい手を抜いたって構わないわよね? 私だって遊びたいの。ようやく、兄さんが気に入るあの子に会えるわけだし。
「いってきます、XANXUS」
『私』も私も。全部ひっくるめて、唯一愛した人は私にだけ見せてくれる微笑みをくれて、言った。
「無事に帰れ」
「ええ」
ずっと昔の、約束と。私の運命を果たす時が、訪れた。
約束は果たされて
(……まだ、この程度)
門外顧問の愛弟子と剣を交えつつ、私は内心で零す。内側の兄さんがうずうずしているのをなだめつつ、あまり怪我をさせない程度に力をセーブしつつ戦うというのは、結構面倒なことで。
「うーん……教えてくれないと私が怒られちゃうんだけど」
日本に来た理由を分かっていても、知っていることを知られるわけにはいかないから苦笑を浮かべつつ私は言う。目の前の少年は勇ましく、答える必要はない、と言いきってくれたけど……ゴメンね、全部知ってるの。経験じゃなくてただの知識だから、この通りに進むとは限らない。だけれどこの通りに進まなくてはならない『未来』。
ああ面倒、と。もう一度内心で呟き息を吐き出す。
ずっと昔に当たり前だった湿度の多い空気は、イタリアに慣れたこの身には少々鬱陶しくて。郷愁の念でも湧くかと思ったらそうでもないし、帰りたいなぁ、というのが本音。XANXUSの隣が一番私が落ち着く場所だし、ね。
(あ、でも、)
久々の日本なんだしちょっと遊んでもいいのかしら。文化が発展した国の中でもかなりレベルは上なんだし……日本の味が恋しいと思っていたのよね、そういえば。本場の和食食べましょう。それから帰りましょう。
「……決まり」
「は?」
呟いた言葉は彼の耳に届いたようで、脈絡のないそれにいぶかしげな顔になる。くす、と私は笑い、左腕に取り付けている剣を構える。
「ねえ、早く朝になってくれないかしらね?」
《…………》
内側の兄さんの呆れた声音と。意味が分からない、と顔にでかでかと書いた彼の表情。それがおもしろくて、おもわず私は笑ってしまう。
だって、明日のお昼でしょう? 彼らとあなたと私達。次の運命が、交錯するのは。
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のんびり、ゆったり。やる気のなさがちょっと気付かれて相手に怒鳴られたりだとかしつつも、私はそんな感じに戦っていた。兄さんにも何度か内側から怒鳴られたけど、気にしない。未来を知っているというのは、こういう時を楽しめなくて残念ね、と。そんな風に思いつつも、私は昼を待ち続けた。
そして声を、聞く。
「いた」
《あ゛ぁ゛?》
兄さんは、無視。興奮のせいで少し強く蹴りを叩き込んでしまって、あ、と呟いても時すでに遅し。目の前の彼の体は宙を滑って、そのまま下の方に落ちていってしまった。
「……死んだり、しないわよね?」
《死んでもいいだろうがぁ》
ちょっとむすっとしてる兄さんに私は苦笑しつつも、下を見下ろしやすい場所に立ち煙が晴れるのを待つ。
ああ、無事みたいね。よかった、と安堵したのは束の間。探していた彼らを見つけて、私は声を聞いたさっきの瞬間よりずっと、体が興奮に打ち震えたのを感じる。
沢田、綱吉とそのファミリー……物語の主人公達を生で初めて見て、その幼さとひ弱さに驚く。まだ弱い、ただの子供。どんどん強くなっていく、可能性の種。
《どうしたぁ? 》
「……なんでもない」
くす、と笑い。煙の向こうに私は歩く。
「バジル君ー、無事ー?」
「ぐ……! だからおぬしは……!!」
呑気に呼びかけた私に、何か凄くいろいろと言いたそうな顔をしたけれど結局やめるバジル君。ああかわいい、と笑えば、笑わないでくださいっ!! と怒鳴られた。どうでもいいけどバジル君、敬語になっちゃってるけどいいのかしら?
「だ、れ……?」
沢田 綱吉の言葉に、少し首を傾けて私は笑う。
「。・スクアーロよ。よろしくね」
「あ、はい、こちらこそ……?」
そう言えば少し頭を下げてくる綱吉君。久しぶりの日本人らしい反応に噴き出してしまう私。そうよね、挨拶されたらやり返せ、だものね日本人。ちょっと気が弱くて流されやすいものね、日本人。
今も日本人の心は忘れてないつもりなんだけど……ちょっとオシが強いのはイタリア育ちのせいかしら?
「10代目! あいつは敵です!!」
「え、えぇっ!?」
「そうです沢田殿! あの方はあれでも……」
「ちょっと、私別に敵対しようとか思ってないんだけど」
獄寺 隼人とバジル君のあまりの言葉に、しかも鵜呑みにしかけている綱吉君に、おもわず私はむっとする。もう、敵対したいと思ってるのは私じゃなくてXANXUSなのに。あの人がボスだから仕方ないのよね、まあ止めなかった私も悪いんだけど。
「え!? ならどうして拙者を、」
「……逃げる人って、追いかけたくなるっていうのと……」
そんな理由で、と。いう顔をされたけれど気にしない。
「ボスからの、命令で」
私の一言に、バジル君の表情が凍る。分かってくれて嬉しいわ。ちゃんと頭も鍛えられているみたいで安心安心。おかげで状況説明の手間省けたし。
《……お前なぁ》
「兄さん、うるさい」
ぴしゃり、と。黙らせて、私は屋上の壁を蹴って地面に降りる。ヴァリアークォリティって凄いわねぇ、と内心で言えばお前が言うなぁ! と兄さんにツッコまれてしまった。まあ、今回は兄さんが正論ね。
「ただ……ちょっと拍子抜けね。
育ちだした『10代目候補』がこの程度なのは」
「なぁっ!?」
なんで知ってるの、と言いたげな綱吉君。青筋を立てる獄寺 隼人に剣呑に目を細めた山本 武。
この程度の挑発に乗る幼い子供達なのに、こんな世界に巻き込まれてかわいそう、と。今の私だからそう思うし、特に綱吉君は不運の果ての結果。だけれど……だからといって容赦するような、甘い人間じゃないの。私。
「スモーキン・ボムに初級剣士があなたのファミリー?」
「い、いや、獄寺君も山本もただの友達で……!」
「雲雀 恭弥がいれば、ちょっとは変わったかもね」
「え……?」
私が情報を持っていると。あなた達は脳裏に焼き付けなさい。
「六道 骸を倒したんだから、血は目覚めているのよね?」
目を、沢田 綱吉は瞠る。無理やりに兄さんとの
「笹川 了平はまだまだ使い物にならないからどうでもいいわね。
ああ、さっきの子牛君、ある程度有名なのよ? 使い物にならないヒットマンって」
それと、ボヴィーノの秘蔵っ子、とも。だけれどそれはどうでもいい話。警戒をその目の奥に潜ませて、怯えを大量に含んだ色合いの瞳で私を見上げた彼に、くす、と私は笑って見せた。
「後、そうね……痛いくらいのあなたの先生の殺気、どうにかして欲しいかな」
「……久しぶりだな、」
目を向けた自販機の上。そこに座る植木コスチュームのリボーンに、久しぶり、と笑いかけて私は剣を下ろす。
「お前、どこでその情報手に入れた? 返答しだいじゃあ……」
いくらお前でも容赦しねぇぞ、と。続けられた言葉に私は片目を閉じて見せて、言う。
「内緒」
それに眉根を寄せるリボーン。悪いことをしちゃったわね、と。思いつつ切っていた兄さんとの接続を繋ぎなおす。文句が山のように流れてきたけど全部無視して、彼の目を私は見据えた。
「……」
「安心して。私はあなた達の敵じゃないわ」
「味方でもねぇんだろ」
「……ええ……」
正しいのがどちらか。分かっているからこそ、私は曖昧な笑みだけしか渡せない。
「ごめんなさい、また、何か奢るから」
言いつつ、怪我と疲労で動けないバジル君を持っていたナイフで縫い付けて懐のあるものを奪う私。フェイクだって分かってても、これを持って行かないとストーリーに支障が出るから仕方ないわよね。
! と大声で咎める意味で名を呼んだリボーンから距離をとりつつ、私は言った。
「これを奪われると困る、っていうあなた達の気持ちも分かるけど、今回は仕方ないの」
「それはツナのもんだ」
「私が剣を捧げた方が、ご所望なの」
懐にしまえば同時に獄寺 隼人が私に大量のダイナマイトを投げた。それを剣で切り裂いて、バッドを刀に変えた山本 武の方向に私は走る。
構えて、私の剣を受ける山本 武。だけれど、
「剣技を習得してない剣は、軽いの……よっ!」
上に刀を弾けば、得物を奪われたことにより狼狽を見せる。
「甘い!!」
腹におもいっきり蹴りを入れれば、がくん、と崩れ落ちる彼の膝。1人、攻略。
「こ、んの……クソアマ!!」
「あら、心外」
獄寺 隼人の罵り文句におどけるように呟いて、投げられたダイナマイトの導火線をすべて切り落とす。爆発という攻撃手段を奪われたダイナマイトが私の周囲に落ち、投げた直後で次のモーションに移れない獄寺 隼人は隙を見せすぎた。
後ろに回りこみ手刀を首筋に軽く叩き込めば、気絶はしないものの脳震盪を起こして起き上がれなくなる獄寺 隼人。
「弱いわね」
立ち上がりなさい、弱さをバネに。私に負けた屈辱を晴らすために。
いつだって相手になりましょう。そのために、私はあなた達を負かしたのだから。
《甘ぇな、》
「甘さを捨てたら私じゃないんでしょう? 兄さん」
小声で返せば、そうだが、と不満そうに呟く兄さん。
「……?」
そしてそれに続くように、彼の声を私は聞く。
久しぶり、元気だった? ごめんね傷つけて。いろいろな思いはあるけれど、どれも伝えられるものではなくて。ごめんなさい、と。一番いいたい言葉を発する権利は、多分私にはないのでしょう。
だって今更でしょう? あれだけあなたを傷つけて。そのクセして、謝るだなんて。
「ね、言ったでしょ?」
だから私は、違う言葉をあなたに向ける。
「『22歳の秋に』、って」
大きくなったディーノは、呆然と私を見て泣きそうな顔をした。
あとがき
皆様のお言葉に負けました。
完結しても、こんな風に望まれたことが嬉しいです。不器用に終わった2人の物語をもう一度続けられることに感謝します。Neltando di autunno、こうやって再始動させていただきました。ヴァリアー編です。展開スピードは速いです。
久しぶりにこのヒロインとお話したので少し違和感をもたれた方もいるかもしれません。いつの間にか成長していて、どこか明るい方向に考えてくれるようになりました。お兄ちゃんは相変わらず苦労している様子。こんな感じに進んでいきますが、おかえりなさい、と明るく迎えてくださる方が1人でもいらっしゃるなら嬉しいです。
正直まだ始動する気はなかったのですが……お声に負けました。まだですか、待ってます、と言ってくださる方の多さに感動でした。冗談で原作沿いするかもですー、と言ってたのに望んでくださる方がこんなにいて感激です。
のんびり進んでいくかと思われますが、お付き合いいただければ幸いです。
では、次の更新で!!
09/09/02