ぼんやりとした頭で、ああ死ぬのか、と私は思う。どうせ長くない命だと言われていたから、死ぬことに対する絶望だとかはない。元々体が弱くて、いつ死んでもおかしくなかった。ずっと隣りあわせだったものが、私の方に一歩踏み出してきた。それだけの話。
なのに、回りの人達はみんな泣いていて。今更なのに、と唇だけで私は紡いで、バカ! と幼い頃からの友人に怒られた。
「あんたは、いっつも……そうなん、だから……!」
嗚咽の混じる言葉に、私は本当に今更じゃない、と言いたかった。人並に働けただけで私は満足。成人できたことが、私にとっては奇跡だった。だから、もう、これでいい。
ようやく、眠れる。
「―――!!」
呼ばれて、私は少しだけ瞼を持ち上げて、彼女の顔を見上げる。ふわ、と最後の力で笑って、人工呼吸器の向こう側から言葉を、やっぱり唇だけで紡いだ。
(ありがとう、こんな私の傍に、最期までいてくれて)
私の言葉に、彼女の瞳から大粒の涙が零れて。私は眠さに負けて目を閉じる。意識が沈んでいく中で、心肺停止の証拠になるピー、という電子音が響いたのを聞いて。
闇の中に、私は落ちて行った。
私の居場所
そして私は目を開けた。
どうしてだろう、と考えながら今までのことを思い出す。死んだ、はず。心肺停止を告げる電子音を、私は確かに聞いた。気のせいの可能性もあるけど……多分、本当のことだった。じゃあ、どうして私は呼吸をしているのだろう。こうやって、また光を見ているのだろう。
「奥様、生まれました!」
誰かの声に、私は瞬く。『生まれた』? 誰が?
「もう、ひとり、は……?」
女の人の声が聞こえて、最初に言葉を発した女性の声が、残念ながら、と悲しそうな声で言う。ああ、と絶望の呻きを女の人は漏らして。
「その、こ、は?」
「大丈夫、生きてますよ」
「よかった……」
今更に気付いたけど、私は大声で泣いていた。無論、私の意思などではなく体が勝手に動いているような感覚だから気付かなかったみたい。隣に視線を移すと、銀の髪が少しだけある赤ん坊が冷たくなっていた。同時に私の手も目に入って、私は驚きに目を見開く。
(小さい……)
同時に、私は1つの結論に辿りついた。
(もしかして、私)
生まれ変わった、と。そういう、ことなのだろう。それ以外、どう考えてもありえない。私そういうファンタジーなお話は信じてなかったんだけどな。リアリストだという自覚はあったというのもあるし、御伽噺を信じるのに子供の頃に疲れてしまった、というのもある。
御伽噺なら魔法使いがきて病気を治してくれるのに。王子様が現れて、私を幸せな場所に連れて行ってくれるのに。ハッピーエンドなんて、本当は夢想なのだということを、私は虚弱体質のせいであまりにも早く知ってしまったから。
「旦那様、名前はどうされますか?」
「そうだなぁ」
ひょい、と男の人に抱き上げられた私は、泣きやんでその人の顔を見る。どうやら出産直後の大泣きはようやく終了したらしい。喉がちょっと痛かった。
「男の子と女の子、と聞いていたからちゃんと両方用意していたんだが……男の子は死産だったようだしな。
2人分の命、ということで少し名前を変えようか」
ということは、双子だったのね。二卵性の。だけど男の子は死産で、私はちゃんと生まれたということか。それで私の『お母さん』になる人が悲しんでいたのね。
「、なんてどうかな。この子のお兄さんになるはずだった子の名前は『スペルビ』だったし」
『スペルビ』? あの、その名前かなり聞き覚えあるんですけど。
「・スクアーロ。それが君の名前だよ」
にっこりと『お父さん』に微笑まれて。私は気が遠くなりかけてなんとか今までの経験を使って呼び戻す。貧血で電車の中とかで倒れると迷惑なのよ。だから柱にぶつかってでも改札抜けないといけないから、こういうのって慣れただけで別にたいした意味はないから。
スクアーロ。それは、間違いなく、私が好きだった漫画の登場人物の1人で。
(私)
入れ替わってしまったの? ヴァリアーの雨にして天才剣士、S・スクアーロと。
だけど、多分私の体は普通の人間以上に丈夫になった。家柄だっていいみたいだし、何より未来を知っている。スクアーロは、マフィアの学校に通ってヴァリアーのボスを倒してXANXUSという男に会いヴァリアーに入隊。その流れしか知らないけど、これだけ知っていれば充分だ。
私が、スクアーロとなってしまったなら。私は、・スクアーロとしてスクアーロの歩んだ道を辿らなければならない。簡単な道じゃなくても、それが私の義務。
(私は、スクアーロ……)
その言葉を胸の中で呟いて、体力の少なさか疲れを感じて目を閉じる。望んだ世界に、私はこうして立つことを許された。
あとがき
こんな感じの連載になります。
次から一人称じゃないですけどね、多分。無理だと判断したら一人称ですけども。穏やかな子です。でも剣士でいくつもりです。鮫じゃなくてシャチってどうでしょうね? 漢字変換なら鯱です。意味分かんないですね。
ちなみに。貧血のくだりですが、あれ私の経験談。
いや、一回電車で貧血起こしまして。鋼鉄の柱に頭ぶつけたのに何故か痛くなくて、とりあえず改札抜けて20分くらいダウンしてました。一番やばかったのが改札抜けるまでだった気がします。柱に頭ぶつけても痛くなかった、って痛覚麻痺してたんでしょうかね? 1分くらい気絶したりとか、なんか酷い貧血だったんですよねぇ。人生経験ですがあんな経験はもういりません。
では次の更新でー。かわいいなぁ、このヒロイン
09/03/29